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孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
二話:失意のフクロウ
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放課後、僕はハシブトと廊下で大きな荷物を持って歩いていた。

大きいダンボール箱を僕が持ち、小さいダンボールを持つハシブトと一緒に歩く。

担任の脇坂先生に頼まれた代物で、意外と重かった。


「これ、試験かなんか入っているのか?」

部活中だけど、脇坂先生に言われて双眼鏡を首にぶら下げたままダンボール運びをしていた。

実は僕の担任でもある脇坂先生は、我が『バードウォッチング部』の顧問なのだ。

両手にずっしりくる重さは、かなり重かった。

隣でハシブトも同じようにダンボールを持って歩いていた。


「そうだな、少し重いな」

「早く教室に戻って、部活に行こう」

そう言いながら、授業に解放された生徒と何人かすれ違う廊下を歩いていた。


「ハシブト、さっきの話だけど……」

「イラストの事か?」

「ああ、ちゃんと話す時間がなかったから。どう思っているんだ?」

「わしは、あの生徒会長の孤独を癒しに行こうと思う」

「そうか……だけど、どうやって?本当に孤独かなんてわかるのか?」


大きくてよく見えないダンボール、慌ててくる前の生徒とぶつかりそうになるのを回避した。

冷静に考えてあの生徒会長、まともに口すら聞いてもらえない。


「そうだ、彼女は壁を作っておる。見た目には分からぬが」

ハシブトは、そういいながら立ち止まって持っていたダンボールを下ろした。


「どうした、重いのか?」

「喜久よ、これを持って見るがいい」

「腕がしびれたのか?」

「わしにそのような心配は無用だ。とりあえず持って見るがいい」


ハシブトの勧めで、僕は自分の持っていたダンボールを床に置いて、小さなダンボールを持ち上げようとした。

だけど、全く動かない。

なんだ、この重さは。僕の額から汗がだらだら流れ、歯を食いしばっても上がることがない。


「な、……なんだこれは……ダメだ」そして僕は、床にそのまましゃがみこんでしまった。

「人は見た目と中身が異なるというものだ。そして、人は見た目を作り変えることができる。

このダンボールもそうだ、同じ箱の形をしているが重さも中身も全く違う。彼女は『孤高』な壁を作っていた」

「でも、孤高だとして中身はどこにあるんだ?」

「彼女の中身が、あのイラストにある。それが彼女の本質だ」

「彼女は、あのイラストのような人になりたい?」

「そういうことだ」

ハシブトは笑顔を見せていた。まだ僕は、理解できなかった。


「イラストに描かれた器は素晴らしい、あれこそ彼女の性格が出ておるぞ」

「性格が出ている?」

「さよう、彼女が出てきたときは『作務衣(さむえ)』を着ていただろう。女性が着るのは珍しいが」

「なんだ、作務衣って?」

「簡単な話、職人が着る着物のようなものだ。

普通は男性の職人が着るもので、彼女は漆職人の娘と行っておったそうだな」


ハシブトの言葉、確かに美野里はそんなことを言っていた。

それよりも、ハシブトは僕が持ち上がらなかった小さいダンボールを、軽々と持ち上げた。

(こいつ、一体何者だよ)などとツッコミを入れつつも、大きな段ボールを持ち上げた。

ん、なんかさっきよりすごく軽く感じるな。


「ああ、生徒会長も職人の娘ってやつだろう。職人って一般的に頑固で、一途だし」

「そうだな、そうでなければならぬな。

職人は頑固で、孤高で、常に何ものにも惑わされない心が必要だ。

そうでなくては、職人の心が漆器に写るからな」

「ハシブト、詳しいな」

「わしは、漆器が大好きだからな。特にキラキラ輝いているものが大好きなのだぞ」


そんなとき、僕は前が見づらいながらもようやく教室を見つけた。

ハシブトを先に行かせて、僕は後から教室に入った。


「喜久、前にデートの時に生徒会長を調べたそうだな」

「ああ、部長に聞いたのか。ちょっと待っていて」

ダンボールを先生に言われた通りに教壇そばに置いた。

ハシブトも、重そうな小さなダンボールを置くとなぜかミシミシと音がした。

本当に何が入っているんだろう、これ。

などと思いながら、僕の胸ポケットにある生徒手帳を開いた。


「『黒田 嵯毅』。趣味は一人でいること、彼氏はいない、成績優秀で、中学からトップの成績。

家から近いだけで進学校に通わず、この学校を選んでいる。

後は狼を飼っているとか、空手で熊を殺したとか、取井出市の市長の娘とかいろんなデマもあるが。

総称して、プライベートを明かさない。ミステリーな雰囲気に惹かれてふった男子の数、四十名ほど」

「いろいろ調べておるな。では、好きなものは?」

「好きな食べ物は、納豆」

「そうではない、本当に好きなものだ」

「う~ん、それは分からない。あの生徒会長、鋭くて監視も……えっ?」


そんな時、僕はあるものを見つけた。

すぐさま、自分の机の方に駆け寄った。取り出したのが双眼鏡。

双眼鏡で一つ校舎を挟んで見える生徒会長室を見た。

双眼鏡から覗き込んだ生徒会長室のカーテンが、この時だけは開いていた。


「え、うそ……」

「何かあったようだな、喜久」

「ハシブト、見えるか?」

僕は持っていた双眼鏡を、ハシブトに貸してあげた。


「行くぞ、喜久。今こそ、彼女の孤独を癒すチャンスだ」

ハシブトは、すでに動いていた。僕も、彼女について行った。

僕たちが見た生徒会長室では、生徒会長にある異変があったから。


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