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孤独を癒すカラス  作者: 葉月 優奈
二話:失意のフクロウ
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それは、部活動で普段から訪れる川が見える河川敷の公園。

学校の裏から、市街地と反対方向に見える大きな川は四季をいつも見せてくれた。

ここ、取井出市は近くに大きな川があった。

綺麗な水面が見える冬の川は、とても澄んでいた。

川から少し離れて立つマンションとマッチした景観は、僕が好きな場所。


大きな川があると、野鳥が餌場として集まりやすい。

特に冬は、北の方が寒いから餌を求めて野鳥が集まってきた。

それ故に、取井出はバードウォッチングに向いている場所なのだ。


このことを教えてくれたのも、あの人だ。

寒い河川敷の中、僕の学校の制服を着た男子が体育座りしていた。

小太りで、背は低く、眼鏡をかけていてオタクっぽい風貌の男。

学校指定のカバンでなく、登山用のリュックを背負っていたので余計にそう見えた。


「部長、やはりここにいたんですか?」

「扇か、それと安志も」

「部長、なんで黄昏ているんですか?らしくないですよ」

安志の言葉に、小太りの部長の顔が曇っていた。僕と安志も、部長の両脇に座った。

さらには、僕達にならってハシブトも横に座った。


「恋愛の傷は、そうそう治るものじゃない。生まれて初めて恋、破れて気づいたよ」

「それは違いますよ、まだ終わっていませんよ!」

「いいや、あの人はやっぱり僕にはふさわしくないんだ!」

部長は、深いため息をついた。元気のない表情で、ぼんやりと川を見ていた。

川では野鳥たちが餌をとって、自由に空を飛びまわっていた。


「僕がムクドリなら、彼女はフクロウのような存在だ。世界が違いすぎる、追いつけないほどに」

「まだその世界にいっていないのに、諦める理由はどこにあるんですか?」

安志が励ますが、部長は深いため息をついた。


「でも、彼女は美しいし、頭はいいし」

「性格は悪いけどな」

「それがいいんだよ」

部長は、ちょっとだけ口元を緩めた。


「フクロウだって、ほら会いたくても会えない、そんなもどかしさがあるんだ。

でもムクドリは違う、いつでも会えるし。いつも群れて行動している」

「でも、両方とも一緒に同じ世界に存在できているじゃないですか」

「世界……ならば、フクロウはムクドリと同じ世界にいられるのか?」

「そうだとも、恋愛に不可能はない」

安志は、力強く部長を説き伏せた。こういう時、安志の女性モテテクは頼りになった。


「うん、前回は僕が失敗しただけだから。あの時、僕がミスらなければ……

相手の本当の気持ちを、生徒会長の返事をちゃんと聞いていないですし」

「相手の気持ち?」

「そうですよ。部長の気持ちも伝わっていないし、相手の気持ちはわからないじゃないですか。

あの掲示板にだって、書かれていなかったんですから」

「ほ、本当か?」


そういうと、太った顔の部長は僕に向けてきた。

僕と安志で、さらに畳み掛けた。


「まだ、チャンスはあります。本音は聞いていないじゃなないですか」

「ですよ。嫌われてもフラれていてもいないのに、諦めるの、早いっすよ」

「そうだな、扇と安志の言うとおりだ!」

部長の顔は、光が差し込んだように明るくなった。

丁度タイミングよく、夕日が川の水面にかかろうとしていた。


「そうですよ、部長。その意気です!」

「ああ、もう一度始めよう。今度こそ、ちゃんと告白をしよう!

気持ちを伝えるんだ、僕が思っていた気持ちを!」

立ち上がった部長は、夕日をまっすぐに向かい合った。

さっきまで落ち込んでいた部長の姿は、もうない。生き生きとしていた部長の姿が、そこにはあった。


「それより、扇。その女は誰だ?」

すると、当然のことながら今まで一言も発しなかった女を部長が見ていた。

ただ僕のそばで、笑顔を見せていたハシブト。

ハシブトは、あまり関係ないところでは喋ったりしない。そういうことも、教えたからな。


「ああ、部長。実はですね……」

そのあと、ハシブトを部長に紹介した。

ハシブトが『バードウォッチング部』に入部したい旨も伝えた。

納得した様子で、部長はハシブトを見ていた。

途中、巨乳を見て顔をそむけたが。


「なるほど、そうか。よいだろう、部員は拒まず。後は……入部の儀式だ」

「ま、まじですか?」僕は驚いたが、安志は嬉しそうな顔を見せた。

「おお、そうだったな。忘れていた、入部の儀式」

「卑しそうだぞ、安志」

「へへっ、いいだろ。役目は俺がやる」

「ダメだ」安志を部長が、制してきた。美人のハシブトだ、そりゃあ誰もやりたいだろう。


そういいながら、部長は顔をハシブトに近づけた。

このバードウォッチング部には、入部の儀式があった。

部長の話だとアホウドリの求愛行動を意味していて、顔を近づけて顔の臭いをかぐらしい。

ハシブトはカラスだが、あまり逃げる様子もなく堂々としていた。


「何をしているのだ?」

「ハシブト、悪いけれどちょっとだけ我慢を……」

美人のハシブトに顔を近づける部長、ふと部長は「ぬおっ」といってハシブトから離れた。


「部長、どうしたんですか?」

「な、なんだすごく臭いような……」

鼻を抑えた部長は、目にうっすら涙を見せていた。

僕はピンときた、そして匂いをかごうとする安志を引き離した。


「あ、えと……ハシブト」

「うむ、甘美であったぞ」

そういうと、僕はため息をつくしかなかった。

ハシブトの見据えた先には、ゴミ箱が置かれてあった。

僕達が話している間に、ゴミ箱をあさっていたみたいだ。


「これじゃあ、ダメだ……」嘆いて頭を抱えた僕。

「いや、そうでもない」と安志が言ってきた。


「部員として、俺からも頼む。それに、部長の目的のためにも彼女は必要だしな」

「そうだな、また『バードウォッチング部』始動だな。これだけ美人なら問題……ない」

(おいおい、納得するのか?)などと思いながら、ハシブトを受け入れてくれたのでこれ以上つっこまなかった。

ハシブトには、また厳重注意するしかないな。


部長が、そういうと指を一本立てた。

それはバードウォッチング部が、一つの目的に向けて動く合図。


空にはムクドリが空中ショーを見せていた、群れは一糸乱れぬ団体行動。

ムクドリの空中ショーは、そんなちっぽけな悩みも忘れさせてしまう美しさがあった。

そう、この部活はムクドリなんだ。僕にとってこのムクドリの群れは居心地がいいものだから。


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