迫害
(簡単な注意事項)
※少々重い内容です。気分が落ち込んでいる場合などは読むことを控えることをお勧めします。
「突然だが僕の思い出話に付き合ってほしい。」
くたびれた声がそう言った。
「と言ってもほとんど独り言だから軽く聞き流してもらって構わない。
ただ少し自分語りをしたくてね。」
くたびれた声は、どこか儚げだった。
僕は生まれつきあまり体が良い方ではなかった。
それだからか、周りに追いつけないことが色々とあった。
運動も食事も勉強もそして立ち位置も、僕はみんなより劣っていた。
そんな僕にも3人の家族がいる。
お父さんにお母さん、そして弟だ。
弟は僕とは違い体も丈夫で頭も良く、
体の弱い僕をいつも気にかけてくれるような優しい自慢の弟なんだ。
でも兄としての性なのか、弟の前ではいつもカッコをつけてしまうんだ。
たまに、無理が祟って弟を余計に心配させてしまうのだけどね。
そんな幼少期を送っていた僕も大きくなり、徐々に周りとの交流が増えてきた。
勉強や友人関係、部活やテストのように、やらなくてはいけない事が多く、
忙しい時期が僕にもやってきた。
その頃だったかな。
周りに追いつけず、自身が周りより劣っていることが身にしみてわかってしまったしまったのは。
皆が一回の授業で理解している中、僕は何度も何度もやり直さないと理解できず、
皆が軽々とクリアしていく体育課題などは、なんとかギリギリでクリアしたり、
皆がどんどんおかわりしている給食でも、僕は少ししか食べることができない。
そして気づけば友人関係は愚か、いじめや無視などの風当たりの強い環境に身を置くことになってしまった。
いつの間にか親にも愛想を尽かされ、あまり気にかけてくれなくなり、距離が遠くなったように感じた。
それでも弟だけは、こんな僕をいつも気にかけ、寄り添ってくれた。
だから僕は頑張った。
寄り添ってくれる弟に応えるために必死に食らいついた。
遅れをとってしまうとわかっていても、周囲の奴らが無視しようとも、
僕は死に物狂いで、僕を無視した奴らを追ってやった。
そうして僕は大人になれた。
でも頑張れば報われるなんて良い話はなかった。
大人になった僕は、まだ奴らの背中を追っている。
周囲にいた奴らは昇進したり、家族ができたり、社長になったやつもいる。
でも僕は下っ端だ。
今だに周りについていくのが精一杯で、弟のしてくれたことに応えることができていない。
そんな僕を弟はまだ気にかけてくれている。
僕は日々の帰り道が苦痛で仕方がない。
朝や昼はついていくので精一杯で私情に思考を割いている暇はないが、
夜、帰り道では気が抜けて思考に余裕が出てくるが、
溜まっていた思考や思いが漏れ出して、体に力が入らなくなってしまう。
家まで帰らなければいけないのに、
足にうまく力が入らず、思うように進むことができない。
だが、また明日も朝から出勤だ。
家に帰り、体を休め、明日に備えなければいけない。
「付き合ってくれてありがとう。」
くたびれた声が礼を告げた。
「結局弟に恩を返すこともできず、無意味な毎日を送っていた、
あくびが出るほどにくだらない話だったな。」
「これで話はおしまいだ。」
「こんな自分語りに付き合ってもらってすまないな。」
くたびれた声が、消え入るように言った。
鼻腔を刺すような嫌な匂いがする。
「あぁ、、そうかぁ、、、」
今の自分の状況を知るには十分な情報だった。
「死んだんだな、、」
男はすぐに理解した。
薄れていく意識の中、複数の影が揺れ動くのがわかる。
男はそれを知っていた。
『掃除屋』だ。
巷では特殊清掃員と呼ばれる存在。
孤独死や事故死などの処理をしてくれる掃除屋だ。
今まさに死んでしまった彼を処理している最中なのであろう。
男は抗うこともできず、自身の肉や内臓を貪られている様を、
ただ傍観するしか出来なかった。
男は自身の依代が削られていく様子を見て、自分の記憶を辿っていた。
これまで精一杯ついて行ったものに、もう追いつくことが出来ないこと。
弟への恩をもう返すことが出来ないこと。
そして、全てが取り返しの付かない状態になってしまう死の直前を。
夜、帰路へと着いていた僕は、必死に家へ帰ろうとしていた。
力の入らない鉛のような足を錆びた機械のように動かして進んだ。
その時の帰り道は弟も一緒だった。
また、いつものように気を使って寄り添ってくれるものだと思っていた。
だがあの時の弟は、ただ振り返ってくれるだけだった。
そして、そのまま僕を見捨てて追いつけないところまで行ってしまった。
何度も立ちあがろうとしたが、もはや僕には立ち上がる意志すら尽きていた。
しばらく経つと複数の影が近くに寄ってきた。
それは、『掃除屋』、
ハイエナだった。
にじり寄ってくる彼らから逃げ出そうとしても、錆切ってしまった体はごかす事ができず、必死に抵抗しようと投げ放った足は、自分の人生を表すかのように、
『無意味な足掻き』となって空を切った。
投げ放った足が噛まれ、抵抗する力がなくなった僕に彼らは食らいついてきた。
これが、僕の最後の記憶だった。
あそこで僕を見捨てた弟を僕は恨んでいない。
弟は正しい選択をした。
自然界では、病気や怪我を負って衰弱した者を切り捨てていくものだ。
衰弱しているものにかまっていたら群れ全体の生存率が低下してしまう、
それこそ本末転倒であろう。
逆に弟には感謝しかない。
本来であればとうに切り捨てられていたであろう僕を、
ここまで引っ張ってきてくれたのだから。
こんな話まで付き合ってくれてありがとう。
でもこれで僕のお話は本当におしまいなんだ。
だから、最後に僕から君らにも聞いておきたいことがあるんだ。
自然界では生存率を上げるために仲間を切り捨てる、迫害してしまうのだけど。
「なぜニンゲンは迫害を続けているの?」
読んでいただきありがとうございます。
このようなものを執筆するのは初めてのことなので、所々粗雑な部分等あるかと思います。
比喩の使用方法や、文章のまとめ方などアドバイス等いただけると今後、参考にさせていただきます。
その他、感想等いただけるととてもありがたいです。




