53-2 駆け落ちじゃ無いです
今も心配させてるだろうけれど、流石に音沙汰無しでお泊まりなんてしたら、捕方衆が本気を出してくる。
「水沫君、うちに連絡しよ。私がきちんとセツメイすれば、ようぎもはれるよ」
貴重品は鞄と別に持ってるって言ってたもんね。スマホあるよね。
「姫様……あと10年早く産まれてくれてたらプロポーズしてました」
「ちょろくない?」
「あの屋敷に、そんなまともに親切な言葉を掛けてくれる奴居たと思います?」
藤君とか……最近は半殺しにされてばっかりだったね。
「……あれ? 無い……」
服をゴソゴソ探った水沫君の口から出た言葉に、「え」と思わず目を点にした。
「いや……嘘だろ? え? ちょちょちょーっと、よく思い出せ俺。確かに此処のポケットに……」
今の藤君の服装は、白いシャツに袴という明治期から大正期に見られた謂わゆる書生服だ。ただ袴には基本ポケットが無い。隠しポケットを改造して作るという事を彼はしておらず、腰の左側に一枚丈夫そうな布を巻いていた。
内側にポケットとか鍵とか引っ掛けるとこが付いてる。
ちょっとカッコいいエプロンっぽい。
スマホもそこに仕舞ってたんだね。
「今送ってあげたわ」
私達が振り向く速度はほぼ同時だった。
そこには、水沫君のスマホを持って不敵に微笑む乃杏せんせ。
「色々と勝手しちゃったからね。コレくらいするわよ」
「び……ビビったぁ、師匠一言言って下さいよ。つーかどうやって画面開けたの? パスワード知らねェよな?」
なんて言いながら、メッセージアプリを確認したのだろう。
水沫君がいきなり倒れた。
どどどどうしたの!?
気になって、地面に何とか激突させまいと死守したスマホ画面を覗く。
『お嬢さんは当方にて管理しております。過度なご対応は後の面倒が増えますので、ご配慮下さい。すっきり色々ヤり終えたら返します』
絶句。
たぶん家では、既に水沫君は第一容疑者に上っているはずだ。そんな男のスマホから、こんなメールが送られて来たらどうなるか……。
私は毟り取るようにスマホを奪い、麦穂に掛けた。
「むぎ━━」
ドンッ!! ←謎の破壊音(大)
『 ど の ツ ラ 下 げ て 掛 け て き た ッ 』
うひいぃ! 霊力も何も乗ってない、それも電話越しの声なのに空気がビリビリするぅ!
尋常じゃ無い切れ方だ!
「む……麦穂、わたひ……」
『……! 姫様? 大丈夫ですか!? 何か嫌な事はされていませんか!?』
「だ……だいじょぶ、だけど……」
『なんて怯えた声……、怖い目に遭ったのですね』
いや、あの……怖いのは麦穂。
『まだ年端も行かない姫様に奴は一体どんな変態プレイを……許さない。生きたまま血管を全て引きづり出して木に吊るしてくれる』
……うん、ごめん水沫君。無力な私にキミは救えない。
「ちょっと御免なさい。こんにちは、ミス・麦穂で宜しくて?」
『……どちら様でしょう?』
私からスマホをひょいと取り上げて、耳に当てる乃杏せんせがウィンクしてくる。
状況を悪化させてくれた張本人が、どう尻を拭ってくれるのか……正直不安しか募らない。
「水沫の師匠にして正妻、乃杏・ミラヴェルよ」
『はい?』
「水沫君、きこんしゃだったの?」
「いや、まだお一人様です」
頭をツンツンしたら復活してくれた。
「ついでにそこの年増も結婚出来ないお一人さびゃふっ」
今私達がいる場所は地底都市を一望できる場所な訳だが、補装がまだ行き届いていない天然の地面だ。
そんな地面に、踏み付けられてめり込む水沫君……せっかく復活したのに。
「諸々の事情で不出来な夫を迎えに行ったら、お宅のお嬢さんも一緒でね。保護したのよ」
『やはり……この騒動の犯人は水沫だった訳ですね』
「いいえ、お嬢さんの言い分では別らしいわよ」
特に明言はしてないけれど、話がややこしくなるから今は黙っておく。
「私も、彼女にどう攫われたか聞いたのだけれど、水沫ならもっと上手くやるわ。だから……そちらが犯人をきちんと突き止めるまで、お嬢さんは此方で保護する方が安全だと思うの」
スマホからの音は、沈黙。
麦穂……真剣に悩んでるね。
『……不穏分子が潜む邸に姫様を戻すのは、確かに不安です。だからと言って、見ず知らずの貴女をどうして信用しろと?』
「信用は、口で語るものじゃ無いでしょう。行動で示して初めて芽が出る物よ」
よくそんな台詞がポンと出たね。
ついさっき、馬車で幼女に警報ベルを鳴らされてオロオロしていた女性と同一人物とは思えない。
「麦穂さん、貴女ならそれくらい分かるでしょう? ……姫様は預かる。責任は取る。それで十分よ」
一方的に、電話は切られた。




