52-2 錬金術師の階級です
メリークリスマス!
「え゛……ヤダ」
「拒否権は無いわ。今まで大天狗のとこの仕事が忙しいからって目を瞑ってあげてたけど、暇になったんだから容赦無用よ」
試験て何だろ?
「なんのしけん?」
くいくい、と。水沫君の袖を引っ張って問いかける。
あと手を拭きたいから、ウェットティッシュも貰えるように手を差し出す。
「錬金術師の階級試験ですよ」
「うけるのいやなの?」
「次受けたら、俺「賢者」になっちゃうんで……」
水沫君の、ウェットティッシュをくれるどころか、手を態々拭いてくれるそういうとこ好きよ。
……『コード』って何だろ?
「錬金術師には階級があるの」
乃杏せんせの特別基礎授業が、突如始まった。
「見習い」
錬金術師の学校に入学したばっかり。座学も始めたて、卵の中の卵ちゃん。水沫君もここから始めたって。
「初級錬金術師」
ようやく薬品を扱ったり術での合成が可能な殻付きピヨピヨ錬金術師。
「準錬金術師」
やったね独り立ちして良いよ! とお墨付きを頂いた一般的な錬金術師。独り立ちは出来るけれど、大抵は組合に所属して仲間と共同研究するか、もう少し熟練の錬金術師の工房で修行及び資金集めに励む。
「高位錬金術師」
熟練した錬金術師。実力があり過ぎて仕事させたら新米のやる事まで無くなっちゃうのと、組合通しのパワーバランスが崩れるため、組合所属者は抜けなければならない。弟子も取れる立派な頃合い。
「賢者」
錬金術は本来科学分野だが、極め過ぎて魔術師ともはや遜色無いレベルで出鱈目になっちゃった方々。
その上に更に「大賢者」と「未踏の果て」があるらしい。
「まぁ「未踏の果て」は今いないんだけどね。二十年前に最後の1人が亡くなったまま空席で、……「大賢者」は1人いるけど……とんでもないのが……」
目を背ける乃杏せんせ。……その大賢者、多分知ってる。
原作で唯一の、シリアスをシリアルに変えてくれるギャグ担当さんだ。
けどまぁ、それは兎も角……。
此処で、馬鹿正直に『私は錬金術より魔術に興味があります』何て言ったら怒られそうだな。
「姫様?」
「なんでもない……それで、どうして水沫君はコードになりたくないの?」
危険度MAXの仕事を任されるとか、難しい論文を提出しなくちゃいけないとか、弟子を絶対に取らなきゃいけないとか。
そんな面倒臭い事情でも有るのかな?
水沫君は、一瞬だけ目を伏せた。
なになに? 気になる。
「そんなの━━アルケミストの方がコードより響きが格好良いからに決まってんでしょう!」
滅茶苦茶しょーもない理由だった。
「どうでも良いでしょうがンなもん!!」
バシイッ! と、乃杏せんせが頭を叩く。うんうん、ご尤もである。
「もう茶番は終わりよ! 泣こうが喚こうが、アンタには試験を受けてもらうわ」
「横暴過ぎ……わっ」
「にょっ!?」
気付けば、水沫君にくっついていた。
雪の結晶で編まれた鎖で高速されたからだ。
嘘! 何時もこういう術は展開前に気付くのに!
焦りつつも、私は鎖を観察してみて気付いた。
見た目トゲトゲだけど、全然痛く無い。
そっか、悪意が無いから気付かなかったんだ!
「……へ?」
一つの謎が解決するや、また頭の処理が追いつかなくなる事態がやって来た。
見た事の無い広い広い━━広過ぎる空間。
光り輝く小さな花々と宝石が埋まった洞窟……かな?
いや……違う。そんな原始的な物じゃ無い。
上は森なのか、その深緑を反射しているのかも。空から微かに降り注ぐのは、静かな青の陽光。
建物はどれも全て煉瓦や岩で出来た西洋風で、どの硝子窓からも橙に輝く灯りが漏れている。
キンとかカンって、鉄を叩く音。
何処かの工房で起きる小さな爆発音。
楽しそうなそこに住まう住人達の笑い声。
何これ……凄い。
胸が高鳴る。
こんなの、こんなの……本当に物語の世界だ。
「七姫様は初めてだからね。ようこそ
━━━━|錬金術と鍛治の地底都市へ」
私は王都なんて軽く飛び越えて、外つ国へと踏み込んだらしい。




