50-1 一緒に暮らします
(三人称)
柊恩寺 群雨にとって、篠山 阿万寧は石ころ同然の存在だった。
師が大事にしている孫娘故に、他の妖達に比べてやや柔和に対応していたが、何故懐かれたのか、考えれば考えるほど、群雨には謎だった。
彼女に好意を抱いた後は特に『アレは無い。過去に戻れるなら自分の頭蓋を潰してやりたい』と、かなりの後悔に苛まれた程である。
そして彼は、悠揚から戻って暫く、まともに阿万寧と目を合わせなかった。
悠揚で、今回の主犯というべき陰陽師の女に1人では敵わなかった事。
剰え取り逃した事が響いているのだ。
「私、怒ってないわよ」
萌芽や七夜月達の前では敬語だったが、彼女は群雨と2人の時は巣の喋り方になる。
「……俺が俺を許せないんだ」
女に追わされた怪我のせいで、暫く1人では日常生活がままならない彼は、濡れたタオルで背中を拭いてもらいながらそう言った。
「あの気の狂った女は、完全に消しておくべきだった。そうで無ければ……」
「『無ければ』?」
群雨は、此処数日同じ話をするが、必ず此処で話を終えてしまう。
これで実は5日目。
ブチンッ……と。
阿万寧の堪忍袋の尾が切れても、致し方ないのである。
ぎゅうぅ。
「阿万寧?」
彼女のとった行動は、後ろからのハグである。
群雨にとっては予想外だった。
それは、阿万寧が群雨に対して、普段とても警戒心を強めているからだ。
元々、2人の『好き』の比率はこうだった。
群雨→→ ←←←←←阿万寧
今はこうである。
群雨→(∞)→ ←←←←←阿万寧
此処まで来ると恐怖のヤンデレである。
故に布団の上で、風呂に入れない体を拭くためとはいえ脱いだ彼の背中に体を密着させるなど、思いもよらない事だった。
「私がまた、どこかにお嫁に出されるって、そう思ってる?」
群雨の喉の奥で、ヒクリ。と……引き攣った音を感じ取る。
「大丈夫、何処にも行かない」
ハグしてくる腕の力が強まった。
「ずっと一緒よ。そうである為なら、私はなんだってする」
王戦について萌芽と話した時よりも、真摯な瞳だった。
「だって、誰よりも一番貴方に愛されていて、貴方を愛している自信があるもの」
***
今日は家の中がとにかく誰も彼も忙しいので、私は1人自分の部屋で寛いでいる。
悠揚での一件から数日経った。
当然ながら、あの後お昼ご飯を食べる事は出来なくて、戦ってる間は引っ込んんでいた空腹が戻ってきた私は、それでもドタバタ騒ぎでご飯が食べられず。
プイプイにくっ付いてメソメソ泣いてしまった。
恥ずかしい。
しかもだ……。
「ジィジ。あのね、あのね、プイプイうちでかいたい」
「ブハッ━━!!」
渾身の可愛いおねだりをしたのに、ジィジには大爆笑されて却下された。
プイプイ指差して「プッ……プイ……ギャハハハハハハハハ!!」って、暫くその辺の物叩いてた。
プイプイ、結局鵺の家のペット(※子どもの夢に配慮して正体を明かしてない)だったから駄目だったけど。




