49-2 私の知らないお話です
「そうでしたか?」
「しらばっくれるんじゃありませんわ!!」
整備された石畳の道に、ヴェールの女は叩き付けられるようにして倒れた。
「アレを閉じ込めるか、無理なら何処にも介入出来ないようにしなければ『シナリオが狂う』でしょうが!!」
ヴェールの女の腹を2度、3度蹴り、手の甲を踏み砕く。
「今回のが最大の例よ。柊恩寺群雨なんてバグを消せなかった。それに初雷領の大天狗……ッ! アイツはやっぱり最大最悪のバグだわ! あんなの原作に居なかった! 原作に居ないキャラなんて不穏分子100パー確定なのよッ」
女は血走った目で、次にこう言った。
アレを殺す為に、魔物の改造をしたのに。
アレを殺す為に、殺生石を愚かな鬼の手に渡るよう仕向けたのに。
「社昼顔の件だってそうよ! 本当ならもうあの女は、過激派の馬鹿どもに犯されて式神にされてなきゃいけないのに!」
苛立ちを隠せないと、女顔を真っ赤にして、真上の月に吠えた。
「どうしてこの世界の強制力は!! ちゃんと働かないのよォ!!」
そんな彼女等を、陰から覗く者が居た。
「まさか現世に来ちゃうとは想定外ですぅ」
川の底に常世と現世の行き来が自由が出入り口があった。
骨が折れるが、此れは要報告案件だと覗いている存在━━メイシーは溜め息を吐く。
「にしても……」
メイシーはマジマジと、彼女等を観察する。
麦穂から、七夜月と彩雲の行く場所で、表向き目立った行動をしていないながらも、2回以上目視しチリほどの違和感でも覚えた存在はマークするよう結構な無茶振り指示を受けていた。
麦穂は此処最近、七夜月達の周囲で起きている事に何か既視感のような物を感じたとメイシーに話していた。
悠揚で鵺の術が展開された時はメイシーも巻き込まれていた為、全員を見れていた訳ではない。
が、メイシーは夢魔だ。
夢魔には、一度見た人間が種を超えた肉体変化(※人→魚、人→虫等)でもしていない限り、変装程度なら秒で看破する眼がある。
常世に、どの妖の物でも無い人間が居るだけでも異様だ。
なのに、その存在が悠揚の料亭内で何度か……何も違う姿になって歩いているのを見かけた。
『怪しく無い』とは、どう足掻いても言えない。
メイド服に付けたカフス釦の電源を切る。
気付いたのだ。
自分もまた、第三者に見られている事に。
「猫耳のキャスケット帽ですかぁ、良いですね〜、今度買っちゃお」
「低級悪魔が、私から逃げ切れるとでも?」
マスクとキャスケット帽を付けた少女と、対峙するメイシー。
少女が己を低級悪魔と評した事に、失笑を禁じ得ない。
「何がおかしいので?」
「いいえ? ……随分とぉ、世間知らずなお嬢様だと思いましてぇ」
少女は懐から木製の術符を取り出してバキリと折った。
しかし、不発だったらしく、目に見える効果は無い。
そして次は、メイシーの方が早かった。
「忘れちゃうでしょうが教えてあげますぅ。本当の低級悪魔はぁ、記憶操作なんて出来ないんですぅ」
「何を━━」
ふわりと移動する。
そこは今までいた場所より少しだけ離れた━━人通りの全く無い路地裏。
メイシーは、少女の体を壁に縫い付けていた。
ペロリと舌舐めずりをし、色付いた頬と熱量を含んだ光を宿す瞳。
その表情は、初雷領内では誰に見せたとて、スルーされるかシバかれるかの2択だが、人間である少女には効果覿面。
ボンヤリとした表情のまま動かなくなった。
「まぁ〜……B級グルメとしてはぁ、上等な方ですねぇ。久々のご飯、いっただっきまぁす♡」
少女の記憶は、メイシーと出会った瞬間から翌日の昼近くまで、綺麗に消失する。




