49-1 私の知らないお話です
(萌芽視点)
「お祖父様、お見事でございました。私、その手腕に感服致しましたわ」
ほああ?
悠揚事件から3日。
無事に帰宅し、縁側でお団子を頬張りながらお月見しておると、横に座った阿万寧タソに言われた。
「今回のお見合い、全てお祖父様の掌の上だったのでしょう?」
え? は? いや……阿万寧タソ?
もしかして疲れとる? 肌艶前より滅茶苦茶良いけど、祖父ちゃん何の事だか全然分からんのじゃ。
阿万寧タソは、悠揚で見合い相手として紛れ込んどった陰陽師の娘と相打ち寸前までやり合った群雨君の看病に此処3日専念しとった。
本人が楽しそうじゃったから放置しておったが、他の者に交代させた方が良えかのぉ?
「みゃごみゃごみゃごみゃごみゃごみゃ〜ご」
疲労回復には睡眠が一番なのじゃ。明日は休んでゆっくりするのじゃ。
「お祖父様ったら、また謙遜を」
駄目じゃ。通じとらん。
「私、今回の一件で結界を張る技術が信じられないほど向上しましたの」
ああ、彩雲君が最後にワンパンであの怖い紫陽花ぶっ飛ばした時じゃな。
反動で周囲が滅茶苦茶になったアレな。
生死の境を一回体験して妖力アップと何かの深淵を見ちゃったとか言っとったな。
……白状しよう。吾輩、ひっくり返ってただけなのじゃ。
「また、お祖父様が一緒に行動していた七夜月姫も千里眼に目覚めたとか」
夜凪少年の台詞にブチ切れて一時的に覚醒しとったアレな。
……白状しよう。吾輩、ビビリ散らして逆らわんようにしてただけなのじゃ。
「このお見合い話を蹴って下さらなかったお祖父様を、正直最初はお恨みしそうになりましたが……」
それに関してはマジ御免なさいなのじゃ。
「お見合いとは仮初の舞台……我が家の無能どもを冷酷に排除し、私や七夜月様の成長を促すための舞台装置だったのですわね!」
な、何だってー!?
ドヤ顔かわい♡
とか呑気に思っていられたのは、此処までじゃった。
「常世で最も恐るべし影の頭脳たるお祖父様の実技を!! 今回、しかと実感致しましたわ!!」
「みゃごぉおおおおお!!」
ソレ違うのおおぉぉおおお!!
偶然なのじゃ!! 全部偶然なのじゃ!!
『影の頭脳』とか誰が呼び出したか知らんけど、本当に吾輩何もしとらんのじゃー!!
「ご安心ください。今やお祖父様と私の思惑は同じ、一蓮托生ですわ!」
現在進行形で吾輩の思ってる事からガンガン遠のいていっとるがの!?
「つまり私に、篠山の将となり名だたる大妖の猛者達を千切り投げ、王座を奪れと!!」
言ってないのじゃあああああ!!
一度はそんな格好良い事言ってみたいが、言ってないのじゃああああ!!
「私、頑張りますわ!」
何で……何でこうなるのじゃ〜〜、うにゃああぁぁぁあん!!
***
(三人称)
悠揚で事件があった日、すっかり陽が沈んだ頃である。
女は虫の息で川から這い上がった。
川に面したそこは、しっかりと整備されており街灯もある。
夜のジョギングや犬の散歩に出ている者と鉢合わせしそうだが、虫の涼やかな声が響く他には、彼女と1人分の女の気配しか無かった。
「ボロボロですね」
這い上がった女にタオルを差し出すのは、黒いヴェールの女。
「お前……」
「? ……ッ」
ボロボロの女は、ヴェールを纏う女の胸グラを掴み上げる。
「柊恩寺簪は、青柳領で死んだのではなかったのですか?」
文字通り、手負の獣の目でボロボロの女こと群雨と戦っていた陰陽師は、それでもまだ理性を保とうという気が感じられる声音で問いかける。




