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44-2 緊急離脱です ((激怒

 魔物擬きなんだろうソレは、ドレスを纏った人型だった。

 背丈は凡そ3メートルに届くかどうか。人間としては大きいけれど、妖の中ではそこまでじゃ無い。

 体は女体で、覚めるような青のドレスを纏っていた。

 けれども、一番注目すべきは、顔が無い事。

 否、正確には耳から下。口や鼻先はあった。けれどもその上は、紫陽花だった。

 花弁の真ん中で、目玉がギョロギョロと蠢く紫陽花はグロテスクとしか表現出来ない。

 顔がぱっかりと口の開いた花瓶のようになって、大きな紫陽花の房が無数、私達を覗き込む。


 無数の生き物の声を出す唇が、獣を生で食べたみたいに血で濡れて、真っ赤。


 とても巫山戯た容姿だ。

 今まで相手をした思考する魔物や、赤獅子に比べれば、外見()()()弱そうだけれど、血の気が引く感覚を覚えていた。


 コレは……私じゃ無理だ。

 翼が揃って万全な状態だったとしても……勝ち筋が見つからない。


 重たい妖力に引っ張られて、今にも発狂しそう。


 その矢先の事だった。

 青白い手が無造作に紫陽花の花を引っ掴んだかと思えば、血まみれの口へ、餓鬼のようにひたすら突っ込んだ。


 グチャッ!! グシュグシュッ!! ヂャクッ!!


 耳を塞ぎたくなる不快音。

 気付けば、そのドレス姿にはあまりにも似つかわしく無く━━大振りに腕を振り上げて、私達に拳を当てようとしていた。


 咄嗟に動けたのは、私だけだ。

 プイプイを蹴って、兄ちゃんを突き飛ばして、拳を片手で掴んで受け止める。


 触れた手が、黒ずんだかと思えば、ぐずりと……急に溶けて爛れた。


「い゛……ッ」


 何これッ、火傷!?


「ンにゃあ!!」


 そのまま跳ね返す事なんて出来なくて、私は拳の軌道を逸らし、紫陽花の女の下を転がり抜けて、そこから逃げた。


 紫陽花の女の背中が見える位置で、痛みが未だに引かない掌を確認する。


 やっぱり……火傷じゃ無い。

 皮膚が黒い……感触がヌルっていうかグズグズで、すごく痛いし気持ち悪い。

 霊力で強化して、その上からも咄嗟にしては良い感じに結界でカバーしたのに……


 ━━━━霊力ごと、溶かされた。


「さわったらとかされるよ! ねらわれたら死ぬ気でよけて!」


 兄ちゃんがギョッとした顔で私を見る。

 いや、こっち見てる場合じゃ無いから!


「そっち行ってる!!」


 兄ちゃんは、自分の眼前にいる紫陽花の女にギリギリで反応した。

 正直今の大分詰んでたと思うんだけどね!?

 女が両手で頬を包むように触れようとしてた所からの脱出よ? 神業すぎ!

 と思ったのも束の間、女からかなり距離を置いた兄ちゃんが、ガクンと床に膝を突いた。


「兄ちゃん!?」


 心の中の声が表に出た。

 駆け寄ると、目に入った兄ちゃんの手の甲の皮膚の下が、とても不自然にビクビク動いているのが分かった。


「……やられたわ」


 小さな呟きの直後、周囲がほんの数秒程急に冷たくなって、兄ちゃんの吐く息が白くなった。


「こんなもんかね?」

「え? え? なにしたの?」

「あぁ、ちょっと血ぃ凍らせただけよ」

「のほほんと何いってるの!?」


 普通に下手したら即死だよ!?

 私達確かに丈夫だけど、即死するような怪我は死を免れないよ!?


 そこまでツッコミを入れる前に、口にハンカチを押し当てられた。


「む!?」

「呼吸、あんませんとき。あの前衛アートのオバはん、空気中に吸ったら腐蝕するもんバラ撒いとるわ」


 何それ怖ッ……。

 こっちが青褪めている間にプイプイを手招きして、兄ちゃんは私の体を持ち上げる。

 プイプイ来るの早ッ!


「よし」


 いや何が良し!?


「やっぱり、付けさせといてよかったわぁ〜」


 兄ちゃんはそう言って、自分が持っている二振の脇差のうち一振りを私に握らせた。

 それが、どうやら合図だったらしい。


 私とプイプイだけ淡く光った。

 兄ちゃんが口にした『付けさせといて』という言葉を聞き逃していない私は、即座に心当たりが思い浮かんだ。

 脇差の鞘にカツンと当たる、ペンダントだ。


 これ、もしかしなくても……結界でも治癒アイテムでも無くて、


「ヒャーッヒャヒャヒャヒャヒャッ! ヒヒャッ! ヒヒャアアアッ!」


 紫陽花の女が、兄ちゃんの後ろで拳どころか、影で作ったような黒く尖らせた翼のような物まで向けていた。


「生きとったんやなぁ……、生きててくれたんやなぁ。七ちゃん……達者でな」

「兄ちゃ━━」


 拳が、切先が、届く前に私の視界が変わる。


 何処かは分からない。

 けれども、さっきまで精神を侵さんとしていた狂気が全く感じられない場所だ。


 相変わらず閉じ込められた空間内なんだろうけれど、兄ちゃんがくれた緊急離脱のペンダントのお陰で、紫陽花の女からは遠く離れた場所に飛ばされたみたい。


 でも、私の頭から何よりも離れないのは、たった今聞いたばかりの言葉だった。




 気付いた。

 私が妹だって。




 なのに敵意を向けられなかった事が嬉しいのと同時に、




「ふざけんな」




 激しい怒りの炎が、胸中に広がって、視界(・・)()()入る(・・)情報(・・)()()()なった(・・・)


 勝手に、今生の別れの言葉を送るんじゃ無い。

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