42-2 その名はプイプイです
「みゃ……みゃご〜」
「……あっても言われへんか」
苦笑を浮かべてポンポン撫でる夜凪少年。
良い子の気配がビシバシするが、あの彩雲君の肉親……油断は禁物じゃ。
そういえば夜凪少年、お主此処からの出方が分かるのか?
そう思って聞いてみれば、ニュアンスで吾輩の質問を理解したらしい。
「出方? あぁ、何回かこういうとこ閉じ込められたからなぁ」
平安と昭和の頃にイキッたのが湧いた為その頃なら分かるが、今時の子にしてはハードな生活を送っておるようじゃ。
「これ、術者の脳に負荷かけたら良いタイプやろ?」
せ、正解じゃ……。
「ほな術者が徹夜で考えたであろう各部屋のラスボス瞬殺して煽りまくり、無駄に色んなところ切り裂きまくって術者の精神壊れるまで過労させれば勝ちやろ?」
台詞が鬼畜のソレじゃが、大正解である。
吾輩の身内、1人か数人か廃人にされるかもしれない。
身内よ、頼むから精神壊れる前に術を解くくらいの賢さを見せるのじゃぞ……。
どの身内か分からんが密かに心の中で吾輩が祈っていると、夜凪少年が中華料理店の扉を開けた。
あ、外観は下町の美味そうな店なのに中は暗い木の廊下が左右に伸びとる。残念じゃ。天津飯食いたかった。
「さてさて、この辺で一回壊しとこか」
あれ? ステゴロ? 斬るんじゃないの??
「みゃご?」なんて首を傾げたのも束の間、殴って壊された壁の瓦礫(中サイズ)が顔面に食い込んだ。
周囲への配慮ゼロッ!!
この子やっぱり彩雲君の血縁じゃ……。
じゃが、驚きとは一変に来るものじゃった。
ヒュゴッ!! と、何処かで見た覚えのある小さな人影が、廊下の向こうの空間で、上から下へと落下したのを吾輩達は目の当たりにした。
「子ども!?」
今まで余裕たっぷりじゃった夜凪少年の顔に、焦りの色が宿る。
シャランシャラン!!
ヒュゴオオオオ!!
ガシャアアァァアアン!!
再び、壁の向こうの空間を何かが勢いよく下った。
一緒になって空間内に元々有った物も巻き込まれたようじゃ。落下してゆく音で、吾輩の耳が終わる。
『何か』は、本当に一瞬だけじゃが龍かとも思った。
じゃが実際は水で出来た━━巨大な鰻と鯰の中間みたいな魚じゃ。
「みゃ……みゃみゃみゃごぉ……」
「そこ居とき!」
夜凪少年が躊躇無く飛び降りる。
少年んんんん!?
「みゃごみゃあ!?」
壁の穴から落ちないように身を乗り出すと、少年は脇差を魚の尾にまず突き刺し、天狗特有の翼を広げて下へそのまま魚を引き裂いていった。
かっこよ!! 何かの術も付与して魚が斬り裂かれながらバチバチ爆ぜて行く。
「キルルリイィアァァァアアアア!!」
夜凪少年は、勢いを殺さず突き進み、下に居た子どもを抱えると、大爆発が起きる前に更に真下へと、魚との距離を開けた。
吾輩も巻き込まれてはいかんので覗かせていた顔を戻す。
……と、視界が一瞬真っ白になり、魚が爆ぜて消し飛んだ事が嫌でも分かった。
「みゃご、みゃご」
吾輩が次に夜凪少年と対面したのは、完全に魚が消えて安全が確保されたであろう頃じゃ。大体5分後くらいかの?
四苦八苦しながらダウン・クライミングで壁を降りる。薬棚みたいな壁で良かったのじゃ……一回障子戸があって紙をズボッとやってしもうたが、中の存在にバレてないのでセーフ……な筈じゃ。
「みゃごみゃごみゃごみゃご〜?」
夜凪少年と、少年に抱えられた子どもと目が合う。
吾輩の思考は、そこで一旦ストップした。
紫がかった夜色の髪と、大きなルビーのような紅の目。人形のように整った至高の顔立ちの美幼女。
あ、あば……あばばばばばばば━━
「この子、同胞さんやったわぁ」
同胞さんどころか妹ちゃんじゃああああ!!
この前の会議で見たー! 彩雲君が自領でトチ狂ったスパルタ教育施しとるクレイジー幼女じゃろその子!?
彩雲君とこの、とんでもねぇ天狗兄妹が揃ってしもうたー!!
「……ねこちゃん?」
「うん、猫ちゃんやで〜」
「なまえは?」
「……無い」
いや有るからな! 勝手に無い事にするんじゃないぞい!
「なんか付けたって」
「じゃあ『プイプイ』」
「ネーミングセンス良ぇなー。採用」
ちょっと待てぇええい!!
勝手に採用するなあああ!!
吾輩の何処に『プイプイ』要素があるんじゃぁぁああ!! ロマンスグレーの燻銀じゃろうがああ!!
この兄弟が、いきなり吾輩に第二の名前を付けておいて、実はまだ自分達の自己紹介も済ませて無いと知るのは、もう少し後の事である。




