42-1 その名はプイプイです
(萌芽視点)
血気盛んな脳筋が多数を占める常世において、『いやそれ拳で語る必要ある?』と聞かざるを得ん血みどろの争いは、日常茶飯事。
吾輩の生活も、普通に脅かされた。
夜に寝たら10分毎に金属音で起こされた時は泣いた。
暗殺者達より頑張り過ぎなのじゃ。
吾輩、戦えないのに気付けばいつの間にやら常世でも指折りの強者扱いじゃし。
家はでかくなって六華将なんて激ヤバ名家に数えられとった。
……泣きそう。吾輩、兵庫のお山でひっそり蕎麦打って暮らすつもりだったのに。
……まぁ、それは置いておこ。
実は吾輩、昔この術をただの逃亡用目眩しでは無く、商売に使えんかと色々捏ねくり回した時期がある。
山積みじゃった問題を一つずつ潰して色々頑張ってみた。
が、一つだけ商売には出来ん欠点が有って断念したのじゃ。
しかし……今この様子を見るに、解決されているように思う。
五感の違和感も減ってクオリティが上がっとる。
はて? どの子が頑張ったんじゃろ? 一回話して面白おかしいテーマパークの実現を今度こそさせたいのじゃ!
そうと決まれば、早速犯人を探すぞい♪
気分が弾んできた吾輩は、大きな十字路に出た。
目がグルグルというか何と言うか……メチャクチャヤバい30メートル級の牛みたいな魔物が、バクバク通行人喰っとった。
ちびるかと思った。
「みゃごみゃごみゃああああああああ!?」
この術の欠点は、不思議とどこからともなく湧く無害な生物(※花魁やお化け提灯はこのカテゴリー)に加え、危険な魔物、正確には魔物を模した全く別の危険生物が現れる事じゃ。
しかも空間内の生物の強さと同格のが出て来るのじゃ。
吾輩と同レベルなら問題無い。普通の妖にとっちゃ塵同然。
しかし、今日ここ彩雲君居るのじゃ。
オ ワ タ ッ
「ヴ?」
しかも牛が吾輩を見とる!
口をガパっと開けたのじゃ。何する気じゃ? 前屈みの姿勢のままじゃが……
「ヴモォォオオオ!!」
あろう事か、そのままブルドーザーみたいに直進してきよった。
移動方法、気色悪ッ!!
「みゃごおおおおおお!!」
怖! 怖怖怖ッ!! 道ゆく化け猫とか狸巻き込んどるし、あれ地面も食っとるじゃろ!
あいつの胃袋どうなっとるんじゃ!?
いやああああ!! 歯医者さんが褒めちぎりそうな綺麗な歯並びが、血肉でグロいのじゃあああ! そんな口が迫って来るぅぅうう!!
あともう少しで妖生終わる。
本気でそう思った瞬間、牛の頭が不格好にひっくり返り、強制停止させられた体がそれに乗る形で止まった。
え……首を斬り落とした……のか?
誰が……? と思いながら、思わず牛の頭の隣に視線が向かった。
そこまで大きくは無い少年の背中が目に入った。
腰にある刀━━脇差の二振りの内、一振りだけを使ったのじゃろう。
血を振り払うと、たった今使った方の脇差を丁度鞘に戻した。
……あの脇差、どこかで見覚えが……。
少年は牛が死んでいるのを確認すると、吾輩に目もくれず歩き出した。
ちょちょちょちょっと待ってほしいのじゃー!
「みゃごみゃごみゃごぉ!」
「ん? ……猫?」
いや鵺じゃ。この尻尾の蛇が目に入らぬか!
「……常世には変わった猫が居るんやなぁ」
世間知らずか貴様ー!
アッ! 勝手に顎の下掻くなッ……くっ、にゃんという絶妙な力加減……っ、此奴出来よる!!
「どうしはったんや猫さん? 俺、煮干も猫じゃらしも持ってへんよ?」
「みゃごみゃごみゃご、みゃごみゃごみゃごみゃごみゃみゃみゃごみゃみゃみゃみゃ。みゃごみゃごみゃご、みゃみゃみゃごみゃごみゃ」
「この猫えらい喋るなぁ……。よう分からんけど、荷物にならんのやったら着いてきて良えで」
よーし! 今一言葉は通じとらん気がするが、心強い用心棒ゲットじゃ!
しかも優しそうな子で良かったのじゃ。
紅色の目か〜、りんご飴食いたくなるのぉ…………紅色、じゃと?
「みゃごみゃぁ、みゃみゃみゃごみゃ〜ご〜?」
「そう言えば自分、名前あるん? 俺は夜凪言うねんけど」
ア゛ーッ!! 此奴、彩雲君の孫じゃー!! 阿万寧タソの見合い相手じゃー!!




