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36-2 スキャンダルです

 あれ……あの子……。


 私達がいる廊下は、外の灯りが入らない。

 そのためほの明るいオレンジのライトで最低限照らされている状態だ。

 良く言えば上品、普通に言うとちょっと暗い。だから、最初は分からなかったけれど、女の子の顔をまじまじ見た私は、余計な事に気付いてしまった。

 いや、正確には顔だけじゃ無く、壁からちょろりと姿を現した()()()()で。

 さーっと血の気が引く。


 猫みたいな、光を跳ね返す縦に裂けた瞳と桜鼠色の髪。そしてシューと、舌を出している蛇の尾。


 さ……篠山 阿万寧(ささやま あまね)だ。

『碧空は今日も』の、ヒロインの当て馬令嬢。

 そして今日、兄ちゃんとお見合いする予定の、鵺の一族のお姫様だ。


「人が来るな」


 簪のお兄さんが、廊下の向こうを見た事で、ハッとする。

 年配の人の足取り。中居さんか料亭の人だろう。

 こんな状況を見られたら、ややこしい事になる。


 そう思った矢先、誰よりも先にお兄さんが自分達の背後にあった扉を開けて、()()()隠れた。


 置き去りにされた私達……ええぇ。


「鞍馬の姫様に簪姫様?」


 中居さんだった。それも私をさっきの待合室に案内してくれた中居さんだ。


「くす、探検ですか?」

「は、はい」

「待合室は飽きたのじゃ」

「ふふ、そうですよね。ですが、もう少しでお連れ様が来られるとの事ですよ」


 中居さんはそう伝えてくれると、控えめに紅葉の透かし模様が入った深緑の一尺袖を揺らして去って行った。


 勝手に探検してると思い込んでくれて有り難う、中居さん。


 さてと、と。私達はお兄さん達が入って行った扉を凝視する。

 中がどれくらいかは分からないけれど、掃除用具とか入ってそうな感じだった。

 全く、ばっちりお洒落な着物来てヘアセットも完璧なお嬢さん連れ込んじゃ駄目なとこよ。


「簪、羅刹ちゃんもってきてる?」

「無論。破るのは簡単じゃ」


 簪は指輪にして持ち歩いている愛用武器(紺煌羅刹)を指先で撫でた。

 良し、私達の考えが一緒なようで何より。


 密室×多分お互いまんざらでもない男女


 お兄さんのマイペースさ加味したら、さっきの続き(意味深)が繰り広げられている可能性が無きにしも非ず。


 ハッキリ言おう。見たく無ェ!! ンなもん見るくらいなら、瓦礫の下に埋まる死体の方がマシ。


「さかりのついたサルども、死にたくなかったらじぶんで でてきて。3、2、1……」


 開いた。

 篠山 阿万寧は顔を袖で隠しているけれど、服が乱れた様子は無い。よしセーフ。


「誰が猿だ」

「兄者、取り敢えず説明じゃ。見合い当日に妾は相手では無かろう女子に詰め寄る兄を見て、七は時分の兄の見合い相手が詰め寄られとる瞬間を見せつけられたんじゃ。偉そうに出来る立場じゃ無いぞ。修羅場じゃぞ」


 二人が私を見る。

 そこには明らかに同様の色があった。


 まずい事をしでかしてる意識がちょっとはあったのか。良かった、常識が全く通用しない類の人達だったらお手上げだったもん。

 簪は肉親だからお兄さんのスキャンダルをそう安易に外に漏らさないけど、私は別だ。

 私の行動次第で、篠山 阿万寧が、1番可哀想な事になる。

 お兄さんの目に、俄かに戦意が宿る。

 漫画には登場してなかったから初めて見るけど……、滅茶滅茶強いって一発で分かる。翼が揃っていれば相打ちくらいに持っていけるだろうけど……今は無理だね。敵対は避けたい。


「せつめいしだいでは、きょーりょくしてもいいよ」


 だってさー、このままお見合いした所で、篠山 阿万寧に幸せな未来は来ない訳だし。


「私、ゆかいなことのほうがすきなんだ」


 君等、絶対に今絶賛両思い中でしょ?

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