32-2 やっぱり番みたいです
「うん」
「じゃあ……っ」
言葉が喉に引っかかった。
次の言葉が怖い。
それでも聞かない自分は、情けなくてもっと嫌になる。
「━━気持ち悪く……無いんですか?」
「藤君は、ねむくなったら ねるのが きもちわるいの?」
「いや、全然」
「ホンノー的に私のことだけ だいすき なんでしょ? しかたなくない?」
そうです。合ってます。ていうか、自分で言えちゃうんだ姫様。結構すんごい事なのに、サラッと言えちゃうんだ!?
「……ちがった? ぜんせかいのロリにヨコシマな気がある?」
「まさか!」
「だよね。もしそうだったら、いますぐブチ殺してたよ」
ケラケラと笑う姫様。
うん、僕も自分の性癖がそんな事になってしまったら、世の為に自殺してる。
「あ、でもかんちがいしないでね。ヒトによっては、やっぱり引くから。フツーにストーカーとか、みずしらずのオジとか」
良かった。
流石に警戒心がゼロでは無いらしい。
「じゃあ、どうして……僕は良いんですか?」
「りゆう、いっこじゃないんだけど。そうだなぁ……1っこ、いま言っておきたいのは━━」
その時、姫様は今までで見た中でも、一等優しい笑みを浮かべた。
「2ねんまえ」
トクン、と。心臓が跳ねる。
「あのとき、たすけてくれたの藤君でしょ?」
覚えてた……。
違う。
思い出して……くれた。
胸の中が暖かくなる。
あの塵の父親に斬られた日、この子は生死の境を彷徨って、あの瞬間の記憶があやふやだと聞かされた。
生きていてくれさえすれば、俺が助けた事なんてどうでも良いと思っていた。
けれど認識されると、こうも……体の奥底から、柔らかな温もりを感じるものなのか。
「ごめんね。金髪だったから、ジィジだとおもってたの」
姫様の手が髪に触れた。
ふわふわと……綿菓子みたいな力加減で、撫でられるのが心地良い。
「藤君、おかお みせて」
「……っ」
姫様の申し出に、言葉を詰まらせてしまった。
実は呪いが解けた事により、僕が目元を隠す意味は無くなっている。
解ける前は、眼球の強膜が真っ黒だったから隠していたのだ。
妖の容姿は様々だが、僕の目は呪いの気が濃いせいか、見た者に壮絶な不快感と嫌悪感を与える効果があった。
そのせいでどれだけ酷い目にあってきたか……お館様は正直もう『お館様という生物』で片付けるしかないチート故に何とも無かったが、水沫先輩は慣れるまでお手製の錬金薬飲んでたし、麦姐さんは……あの妖は目とか関係なく、初っ端から半殺しにして来たなぁ。
話が逸れたが、もう元に戻ったとは言え目元を見られるのに、僕はまだ抵抗があるのだ。
「おかお、ちゃんとみて お礼 いいたい」
姫様は「ダメ?」と、眉を八の字にして首を傾げる。
はい、可愛い。
「ダメじゃ無い、です」
完敗した僕の前髪を紅葉のような手が横に避ける。
「……………ヒェッ」
表情が固まった姫様から、聞いた事の無い鳴き声が……。
「姫様?」
え? あれ? まさか僕の強膜、また黒に……
「まってまってムリムリムリッ、めっちゃ がんめんが国宝すぎる! 白雨君にてるっていってたのに! いや、にてるけど べつでしょ! ただでさえコエが推しなのにカオもとか!! ゴメン! ちょっと でなおすね!!」
移動が困難なはずの姫様は、真っ赤な顔で逃げようとして、
「っだ!」
転けた。
……今、とてつもなく僕にとって都合の良い言葉が聞こえた気がするのは、気のせいかな?
じゃ無い!
「大丈夫ですか!?」
体を持ち上げてまた膝の上に乗せた。
流石に、怪我してないか確かめるのに距離がどうのとは言わない。そこまで馬鹿のヘタレじゃ無い。
「ふえぇぇ……」
わー……泣いちゃう姫様なんて、すっごいレアだ。
不謹慎だけど可愛い。
霊力が減ってるから身体強化で普段感じないようにしてる痛みも、今は普通に感じるんだろう。
「はいはい大丈夫ですよ〜。痛いの痛いの飛んでいけッスよ〜」
「かっこひぃ、むい〜」
……まさか姫様、ブス専?
いや、腕回して引っ付いてきてるから、違う……はず! 違うよね!?
「うぅ……グズッ、ズッ……ふじくん」
「何です?」
「たずげてくれて、ありがと……ズビッ」
涙をこぼしながら、大きな紅い双眸が僕を映す。
あぁー…………すっごい、純粋で……もっと感動する場面のはずだ。
現に今、僕の中には色々な嬉しい感情が込み上げてきてる。
暖かくて、この子を大事にしたくてたまらないって、そんな衝動。
でも、叫びたい言葉は一つ。
心の中で、サンハイ!
今日も僕の姫様が可愛過ぎるー!!
オマケ
麦穂「何で夜、お風呂上がってから森に入ったんです?」
七夜月「カメがね、モリにちょうちょのイレズミしたへんなシュウダンがいるから、教育してやってって」
麦穂「左様でしたか。如何でした?」
七夜月「首だけだして、うめてきたよ!」




