29-2 解呪します 中
寧ろ、自分達がノリノリで矢面に立つ可能性もある。ところでさっきから何気に出てくる『コクチョウ』……なんか身に覚えがあるけど……まさかね??
「つーか、仕掛けて来たのがお前を支持してる奴等って事なら、大体お前把握してるっしょ? こんなまどろっこしい事してないで、寄生虫供追い出してきなよ」
「簡単に言うなよ!」
「いやお前そういうの得意じゃん」
わお……白雨君、組織の膿を出すのが得意なタイプなんだ。
「得意じゃ無い! あと確かにまどろっこしいかもしれなかったけど、俺なりに真剣に考えたんだからな!」
「自殺幇助させられる側の配慮がゼロなんですけど?」
あ、これ間に私居ちゃいけない気がする。
スススと、藤君から手を離して少し離れる。良い感じの切り株があるからここ座ろ。
すると、白雨君はようやく歩けるまで回復したのか、ゆっくりだが藤君のすぐ近くまで歩いてきた。
「ていうかお前がせめて里帰りして、近況報告ちゃんとすれば馬鹿どもが調子乗らなかったんだよ! 何で本当に帰ってこなかったのさ!」
「うちのお館様の人使いの荒さが凄まじいからだよ!」
「それも気に入らねェ要素ッ、お前あの姫様に仕えに行ったんだよな!? 何で実家を半壊させた化物の側近やってんだよ!?」
「色々あんの! そもそも寄生虫が暴走して姫様攫わなきゃお館様の襲撃は無かったよ!」
何か知らない話が出てきたなー。
私誘拐された記憶、皆無なんだけど……。
アレかな? メイシーが言ってた2年前に揉めたって話……。もしかして、親父が私を膾斬りして暫く寝込んでたタイミングかな? ジィジの背中(?)見て最後気絶して、目ェ覚ましたら3日経ってたあの時……。
……? 金髪だったからジィジだと思ってたけど……記憶に違和感があるな。
「ああ言えばこう言う!」
「お前もね! つーか本当に最初からちゃんと説明しろよ。僕の刀、治癒力低下が付与してあるんだから」
通りで、普通に切れたし治りが遅いと思ったよ。
「……お前だってその呪い、本当は俺にかけられたの自分に移したって黙ってただろ」
また新事実がポロリしたなぁ。
藤君が言葉に詰まってるから、事実らしい。
ガチの感情的な口喧嘩って、色んなプライベート情報が面白いくらい出るね。
「何で……」
「お前俺と普段不自然なくらい距離置くし、近づき過ぎたら本気で避けるだろ。何かあるって思って普通に調べるよ」
低い声は、本当に怒っているソレだ。視線は真っ直ぐ、藤くんを射抜いている。
でも今ので納得だ。思えば、白雨君が近付いた時、藤君の服の下に収まってる黒い汚れみたいな呪いは、見える位置に出てきた。つまりソレは、磁石に吸い寄せられる針金みたいに、呪いが白雨君の方に戻ろうとしていたんだ。
「藍龍と金龍じゃ呪いを払う力が段違いだ。俺だったら1日で死んだだろうけどお前なら何年か保つ……呪い食らって意識が無い間に移したんだろ」
嗚呼……、彼が漫画の中で壊れていた理由の一片。そして漫画では知り得なかった今、視野を狭くして迷走して藤君に突撃しちゃったのは、自分の知らないところで、自分のせいで大切な人が苦しんでいたという、後ろめたさのせいも有ったんだろう。
「勝手にお節介焼いて、ふざけんなよ! 焼かれた方の身にもなれよ! テメェは満足かもしれねーけど! ソレで死にかけられたら、こっちは辛いどころじゃ無ェんだよッ!!」
白雨君の言い分、分からなくも無いけどキツイな。
「だってお前いっつも『助けて』って言わないじゃん! こっちが先に勝手に手ェ打たないと死ぬかもしんないのに!」
「うっさい察しろ!」
「そっちが僕の気持ち察してよ!!」
「バカきょうだい、おちついて」
聞くに耐えない言い争いになってきたので、言葉に霊力の圧を乗せてみた。
ガクンと、2人とも地べたに這いつくばる。
吃驚するくらい同じタイミングで膝付いたな。
そして私、なんだか物語の悪役になった気分だよ。
藤君は前髪のせいで表情読めないけど、白雨君なんて凄い恨めしげに睨んでくるじゃん。
そこまで怒んないでほしい。こっちも我慢と手加減したんだから。
「キミたちのカワイイきょうだいげんかにくちはさむき、ほんとうはなかったんだけどね……かわいくなくなってきたから」
思わずため息を一つ吐いた。
「私、ことばにせず、じぶんのきもち さっしろっていう子きらい。うぜーカノジョっぽくてきもい。口あるじゃん。はなしなよ」
「それが出来たら……」
苦労しない……か。
テンプレ回答乙。
「じゃ、せなかおしてあげる」
切り株から立ち上がると、私はもう一度藤君の元に歩み寄った。




