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28-1 許さないです

(三人称)


 爆ぜる音と、暗闇照らす光。

 藤紫の顔があった場所に、青い炎が浮き上がり、燃えていた。ツーッと、冷や汗が頬を伝う感覚を覚えながら藤紫は口を開いた。


「お前ね……。コレはマジ洒落になんないよ」

「うるさい……っ」


 その時の白雨の顔は歪んでいたが、藤紫がそれに構うより先に、次の炎の攻撃が来る。

 足を狙って。肩を狙って。避けた先の着地点を狙って、避けるたびに、炎の爆ぜる速度が上がる。今は妖力を感知する事で避けれているが、火花が散ると妖力が空気中に分散し、何処もかしこも白雨の気配ばかりになる。そこで、彼は気付いてしまった。


 ━━━━マズった、積むわ。これ妖力充満したら避け切れない広範囲一気に燃やされる。


 木を台にして高い所に飛んでしまった藤紫は、正直覚悟を決め始める。

 しかし、不思議な事に思っているような致命的な攻撃は無かった。

 白雨はふらついている物の、手足が再生して木の幹を支えに立ち上がり始める。

 しかし、やはり大規模な炎は無く、代わりに少量、彼の口元を流れる血液を藤紫は見た。


「何してんの?」


 そんな台詞が思わず出たのは、苛ついたから、以外の何物でも無かった。

 咄嗟に収納した刀をもう一度出した藤紫は、一線。


 居合いで、充満した妖力を斬った。


 静かに妖力と空気の繋がりが切れる。一つ一つが波のように、切れて弾けて、静寂が包む頃、彼は地面に着地した。


「お前……習得しきってない術連発して何してんの?」


 藤紫の声は冷え切っている。

 白雨は言い返そうとしたが、迫り上がってきた血でむせて咳き込み何も言えない。その間に藤紫は、怒りのまま体を動かしていた。


「殺しに来た癖に、確実に()れるとこで()りに来ない。使いこなせない荒技使って自爆。マジ何しに来た訳?


 ━━そんな舐めた考えで、僕を殺せると……本気で思ってる?」


 白雨の体にギリギリ当たらない位置。木の幹を勢い任せに蹴りつけ、彼は凄む。白い肌が、炭のように黒くなっていく事も忘れて……。


「偉そうに説教こいてんじゃ無ェよ」


 白雨自身も、どれだけ今自分が滑稽か分かっている。

 藤紫はそんな弟の姿にため息をついて、薄々ついていた見当を、そのまま口にした。


「一族全体が、さっさと僕を殺そうって方針に変わったわけ?」

「……そうだよ。『黒蝶(こくちょう)』も動き出す」

「え、ガチじゃん。いっそ笑える」


『黒蝶』。洞爺家で最高練度を誇る暗殺部隊。構成員の素顔を知るのは前当主と前々当主のみ。藤紫と白雨は、その存在だけ辛うじて伝え聞いていた。


 藤紫はまだ冗談めかす余裕を見せたが、次の一言でその余裕は消える。


「お前の呪いが、少しずつ漏れて来たって、ジジイどもが言い出した」


 藤紫以外の、一族の集まりで白雨はその話を聞いた。


「……お前の姫様くらいの子どもが、身食いをしたって」

「……っ」


『身食い』は、成人済みの龍特有の病気を指す。

 症状は文字通り、自分の体の肉を食べる事。尾を。腕を。足を。家族がどれだけ必死になって止めても、一心不乱に眠たくなるまで食べ続ける。

 龍も六華将の妖だ。回復力は並の妖より強い。しかし、やらかしているのは本人だ。回復が早いか、手遅れになる程食い切るのが早いか。

 幸い、特効薬が最近出来たため、周囲が早く気けば助かり易い。が、非常に危険な病気な事に変わりは無い。


「大人が早く気づいてやれたから、その子は無事らしいけど」


 この自体を重く見る者は多かった。

 更にはそこに、白雨を時期当主に担ぎ上げようとする一派が付けこんだ。


「俺だったら見捨てられんのは未だ分かるよ。でも……、お前は何があっても見捨てられるべきじゃ無ェだろ!」

「…………は?」


 言っている事と行動の矛盾が、明瞭になる。

 しかし、そこを指摘するより先に、白雨が捲し立てた。


「正妻の子で、長男で、序列も高い金の龍で、俺みたいなのにも普通に接するような奴なのに呪いが早く解けないからって「見捨てられるよ」


 勢いづく弟を制し、藤紫は一息吐いた。

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