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27-2 龍の兄弟です

「麦せんぱぁい♡ ちょ〜っとこっちに視線下さぁい」


 メイシーが声をかける。まだ殺気立ってる麦穂がメイシーの方に顔を向ければ……必然的に、()()()()()()私と水沫君も、視界に入って━━水沫君の体が、早くも洗い場の壁に突き刺さった。多分、鏡に頭からいった。


「ギャアアアアアァァァァアアア!!」


 麦穂も跳んで殴りに行く。今、湯の水面走ったね。

 あぁ……水沫君の原型無くなりそう。助け舟だすか。


「麦穂ー、ゴウイよー」


 ……駄目だ聞こえてない。寧ろ出血量が増した気がする。メイシーも殴り始めた。

 うん、潔く諦めよう。さよなら水沫君……来世でまた会おう。


 メイシーと麦穂が水沫君を殺してる間に、お風呂から出る事にした。後、殺意の対象が自分から水沫君に変わった事で安心して寝てる昼顔さんを、一応脱衣所前の長椅子に転がしてあげた。この狛犬さん、一日中寝てるな……。


 用意されてた浴衣に袖を通して社邸の廊下を歩く。予定としては、このままシンプルに寝るつもりだ。だって今日は色々あって疲れた。イ草は明日、亀達がカナカナ横丁に届けてくれると言っていたから、もう明日は本当に帰るだけで良い。因みにイ草が急に収穫出来なくなったのは、巨大亀の封印が後もう少しで解けそうだった為、地中に潜って巨大亀に最後の一踏ん張りする為の力を送っていたかららしい。


「みぃ」

「カメ? どしたの?」


 今日、私の頭にくっついてたカメが、通りかかった部屋の座卓の上で、何か言いたげな目をしている。


「みいぃ、みみ!」


 小さな口で袖を掴んで、何処かへ案内したいらしい。

 何だかその様子に、胸騒ぎを覚える。


「いいよ。アンナイされてあげる」




 ***


(三人称)



「白雨、お前さ……まだすんの?」


 そう問いかけたのは、刀を鞘に納める藤紫だ。


 彼の前では、大木に背を預けた白雨が片腕と片足を損傷した状態で俯いている。


「五月蝿いよ」


「帰ってくんなって言われてる感じ?


 僕殺すまで」


 白雨は黙った。


 彼等が昼間、イ草狩の時に周囲の観察が疎かに成る程白熱してしまった理由がソレだった。

 洞爺白雨は、藤紫を家に連れ戻す為に来たのでは無い。殺しに来たのだ。


「アホ過ぎ。力量差明らかじゃん」


 白雨と藤紫では、呪いというハンデがあっても、本気でやりあえば藤紫が勝つ。実家にいた頃からそうだった。

 龍は、生まれながらにして亜空間に物を収納する能力がある。実家から持ち出した数少ない私物である刀を収納した藤紫は、呆れ果てていた。

 だが対する白雨は未だにただ黙って、残った腕の手で地面を引っ掻き、苔をむしって土を握りしめていた。


「お前が……さっさと呪いを解いてくれたら良かったんだ」


 龍の一族は元々特殊だった。一族の全員が、命に別状は無いが、何らかの呪いにかかるのだ。本当に、平等にかかる小さな呪いだった。

 だが、誰かが拒んだ。ソレ自体が悪かったと責める者は居ない。

 しかし、方法が不味かった。

 ただの呪い返し。たった1人分だけ。

 そんな軽い気持ちで行われた行為は、一族全員分の呪いを圧縮し、1人の少年に入り込んだ。


 一族の大多数が喜び、少数が悲しみ、目を背け、そして怯えた。


 怯えた者達は、どちらかと言えば常識のある類だ。

 圧縮された呪いが、本当に1人の子どもの犠牲で済むのか……?

 そう考えたのだ。


 子どもはかろうじて生きていた。龍━━洞爺家当主の直系の血族は、肉体から他と別格だ。


 肌が爆ぜて、肉が爛れて、そうして死ぬ筈だった少年の体は、高熱と肌が墨のように黒く染まる症状に抑えられていた。


 ある時、誰かが言った。この少年が死ねば、圧縮された呪いが爆ぜて一族全体に降りかかると。


 別の誰かはこう言った。この少年に呪いが集まっている今が好機だと。今少年ごと殺せば金輪際、龍の一族は呪われない。


 そして当主は…………呪われた息子に、こう言った。


『どちらが正しいのか、某には解らぬ。だが、お前が自身でその呪いを解ければ、もう誰も苦しまないだろう。呪いを解け』


 一見息子が殺されてしまわないよう案じ、また鼓舞しているような物言いだが、実際は違う。

 普段全く家族を顧みず、恐らくまともに話したのもソレが初めてになる男だ。

 放置を決め込むには一族全体がうるさい為、最良の手段を取れと言って来ただけである。


 運良く、確実に呪いを解くための鍵を、少年━━藤紫は見つけた故に、初雷領へ来た。

 だが、現実は甘く無い。


「呪いが解けないのは━━」

「分かってるよ。あの姫様は━━お前の番は、まだそんな行為が出来る歳じゃ無い」


 あと、せめて10年早く彼女が生まれていれば……。

 そんなタラレバは、もう何十回も藤紫自身が思い描いた想像だ。

 結果、


「ンな事言ったって、変えられねーのよ。そんなモン。だから僕は、姫様のすぐ近くに居られるようにしたんだ」

「それじゃ駄目なんだよ!!」


 白雨の大声は食い気味、泣いているようににも響く。


「のんびり……出来ないんだよッ」

「……白雨?」


 様子のおかしい弟に、藤紫は違和感を覚えたが、即座に、自分のすぐ近く━━顔半分を覆うような妖力を感じ、左へ跳んだ。

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