3-1 御前試合です
やって参りました〜御前試合当日。
場所は何処かの現世の緑地。専門の妖術師達が人払の結界を張っているので、関係者以外此処には存在しない。
関係者も少ない。
天狗側はジィジと麦穂。あと阿保親父の側近だという、時々見かけるお爺ちゃん。
審判を務める王族━━鬼の一族のお姫様。
お面を付けているから顔は分からないけど、サイズが小さい。年齢、私と同じくらいだと思う。そしてその子の侍女1名と、護衛と思われる数人の男女。
狐が一番多いな。中学生くらいの背丈の男子とその両親。あと親戚らしき大人数名と、各々の侍女や護衛数名。もふもふした尻尾が何本もある。触ってみたい。
「これはどういう事だ?」
そう切り出したのは狐の男の人。多分、私が戦う相手の父親だ。
「鞍馬夜凪はどうした?」
その疑問はご尤もです。
この場にいる全員、鬼か狐か天狗のお面を付けているので表情は分かんないけど、父親狐の声は完全に怒ってる。
「学校だとよ」
飄々と応えたのはジィジだ。お気に入りの黒い扇子をパタパタさせている。
「良し分かった。嘗めているんだな」
「抑も、アレは御前試合の事すら聞かされておらんよ」
そうだったの!?
「アレは此方の世界と縁切りしたがっていやがる。そんなモン此処で闘わせたら、喜んでワザと負けるさ。だがソレは、うちの一族としちゃぁ業腹なのよ」
あー……ジィジが今回の話を即行で蹴らなかったのって、そういう理由だったのか。
狐と天狗の確執とは関係無く、ジィジは負けず嫌いだ。王族の目の前で無様な姿を晒す奴の身内になんて、なりたくないに決まっている。
「それで幼児に殺し合いをさせるのか? 天狗は何処までも邪道だな!」
「『殺し合い』ねぇ? せめてそうなりゃ良いが」
ニヤリとした口元をジィジは扇子で隠す。
どう言う事だろうか?
「姫様」
「麦穂?」
ずっと私たちの後ろに控えていた彼女が、真剣な眼差しを向けてきたので、思わず身構える。
「なるべく、なるっっべく! 優しくして差し上げるのですよ」
麦穂も何を言い出すんだろうか??
「おい、何時まで妾は待てば良いのじゃ?」
その声は、決して大きくは無い。寧ろ小さいくらいだった。けれども何かしらの術も声に乗せたのか、この場の全員を威圧した。
と言っても、私とジィジはなんかビビッと精神に干渉した瞬間に術を振り払ったけどな。蚊に刺されたかと思った。
鬼の姫様、意外と小賢しい事するな。
「始めよ。妾は無駄に囀る鳥も、唸る犬も嫌いじゃ」
小さな手には、巻き物があった。しゅるりと紐を解くと、花の香りが広がり、ほんの数秒間だけ霧が立ち込める。
そうして気付いた時には、対戦相手の狐と私だけが、ポツンと取り残されていた。




