25-2 怪獣映画大好きです
(三人称)
「成る程、邸で大人しくしているはずの愚物と姫様と馬鹿が、洞爺家の御曹司様を連れてここまで来た経緯は分かりました」
亀が赤獅子に接触する直前、宙に投げ出された3人は偶然にも麦穂達の近くに刺さった。
そして少し場所を変えてから、メイシーと藤紫は、縛られて石抱きの刑に処されていた。
石とロープと木の出所は、元々彼女が持って来ていたトランクの中に入っていた。
どさくさに紛れて偶然にも回収出来たのだ。
「理不尽が過ぎる」
「麦先輩ぃ、私たち悪い事してませぇん」
「姫様が畳を買いに行かなければならなかったのは、お前達が暴れたからでは?」
心当たりしかない2人は、魚のように一瞬跳ねて固まった。
「あと、姫様が馬車停留所の饅頭を買ってる件。今日のおやつは済んでるぞ」
「うぐっ」
「それと、お館様への連絡は? 乗合馬車を使うような長距離移動、当日にホイホイ許可を出すとは思えんが?」
「ぴっ」
麦穂鬼軍曹の指摘に、どちらも青い顔で俯いている。
そんな2人のすぐ後ろで、白雨は静かにしていた。というのも、
━━あの亀肉食なのかよ! あとこの2人は何で普通に石抱いてんだよ! 後ろのウェディングドレス野郎について、何で誰も指摘しないんだよ! アレもしかして幽霊? 俺にしか見えてないの!?
ただでさえいきなり始まった怪獣大決戦。これまたいきなり石抱きの刑に処される実兄。というツッコミどころしかない場面に、ウェディングドレスの男という地獄がトッピングされているのだ。脳がバグって当然である。
因みにウェディングドレス野郎はと言うと……。
━━嫌ァァァアア! 見ないでぇぇえええ!! 大体の事情を察してくれる身内だけに見られるなら兎も角、その家族に見られるとか相対性理論を再計算される公開実験だろ! アインシュタインも電卓投げるわッ!
顔こそ死んでいて静かだが、脳内は死ぬほど喧しかった。
一方で、そんな彼等の苦労×2、膝の痛み×2、失われし尊厳×1について、全くもって知る由もない七夜月が今どうしているか、そろそろ語ろう。
「ひやぁぁあああ!! とくとうせきッ、しぬほど血のあめー!!」
楽しい:グロい=7:3の感覚で叫ぶ彼女は、未だ亀の頭の上に居た。
そして亀が赤獅子に死ぬ程噛み付くため、返り血でベトベトだった。
『おのれ何だ小娘ぇぇええ! 貴様も私の邪魔をするのかぁぁあ!』
「え……くわれてんのに すっごい喋るじゃん」
よぉーく、無意識に七夜月は目を凝らす。
赤獅子の声帯部分があったと思われる場所は、既にモザイク加工と親友だ。では何処からこの声は聞こえているのか、気にならない訳が無い。
━━体の中には音源無し。遠隔で操ってるんだ。妖力の糸が手脚だけじゃ無く内臓にまで沢山絡まってる。一本一本見て声の主探し出すのは、現実的に無理。
ではどんな方法が、今の七夜月に可能かといえば、とても単純な事だ。
A.引っ張る
「カメ、ちょっとアタマ下にして」
亀が下の方━━腹に頭を突っ込む。
無論、七夜月も赤獅子の腹に全身突っ込む形となる訳だが、それは、とても好都合だった。
霊力を糸に触れて霊力を流すと、面白いくらい意図が手に集まってくる。勝手に幾本か集まったソレを紅葉のような小さな手でしっかり握ると、奈々夜月は翼を広げた。
血が絡み付かないよう結界を張って後方へ飛ぶ。その行動に、赤獅子は悶え苦しんだ。
『何故だ!? 何故体が引かれ━━あぐぁああああ!?』
苦しんでる様子から、後少しだろうと七夜月は辺りをつける。
『クソックソッ! 私は絶対に諦めない! 絶対に今度こそ! 昼顔を日和を! 今度こそ番に━━━━』
「きっしょ」
バツンッと、鋏で断ち切られたような音と同時に、糸の束が切れた。
何故か? 七夜月が切ったからである。世の中には、『押してダメなら引いてみよ』という言葉が有る。七夜月は引っ張った。強く強く引っ張れば、相手は引っ張られまいと、逆方向へ向かうから。故にその逆方向への力が非常に強くなったタイミングで糸を切り、相手が行こうとしていた方角に、その精神体が追い出されるようにした。




