21-2 「みぃ!」です
白雨君は愛妾、つまり浮気相手との子供だ。六華将の龍の家━━洞爺家での暮らしは、表向き華やかで誰もが羨むだろうが、正妻や愛妾の存在を許さない祖父母、そして彼女等に忠実な使用人達や、親戚から……虐待を受けていた。
無理やり実母から引き離されて、食べ物を出されない事なんて日常茶飯事。出ても腐っているか毒入り、針入り、虫入りのどれか。戦術指南の資格も無いごろつき雇って、訓練と称したただの八つ当たりのようなリンチ。どれだけ寒かろうが暑かろうが、庭先に出ればそのまま中に入れて貰えない。母親から送られて来た宝物なんかは直ぐに捨てられる。そしてそんな息子の事なんて、知らんフリする父親……。
あと、仲良くなった友達や庭師の老夫婦を殺すよう強要されたり、信じていた侍女に裏切られて貞操を……あ、生々しい事は思い出すのやめよう。気分悪くなる。
まぁ、そんなだったから、原作には説明だけでしか登場無かったけれど、唯一家の中で庇ってくれていた藤君の存在は大きいんだよね。
……藤君、家で働く前にその辺解決したのかな? してなかったら、化け物塗れの腐り果てた実家に仔ウサギ捨てて来た軽蔑する奴なんだけど。
……まただ。
「メイシー……きづいた?」
「えぇ、同じ視線です」
メイシーが立ち止まり、私は真横を見た。
話をしている間に、木よりも苔の岩が多い場所に来ていた私達。
さっきと同じ視線……でも、あのカメさん何処にも…………いたわぁ、岩の上に。
「ついてきたの?」
「み?」
首を傾げてる。……別の子かな?
「さっきの子もだけど、あやかし が めずらしいのかな?」
「まぁ、敵意は感じませんけどぉ」
「みぃみ! みー!」
ゴッと、頭に亀が飛んでくる。案外重量あった。
あれ? でもこの子なんか触感がモチッとしてるぞ? 亀なのに不思議。
「姫様大丈夫ですかぁ!?」
「だいじょうぶ、何でかもちもちしてる」
「触っちゃダメ━━は? 『もちもち』?」
「ほっぺくらい。さわる?」
ニュッと、親指と人差し指で作った丸で頬を一部挟むと、メイシーが地面に膝をついた。手を離された瞬間に綺麗に着地出来たから良かったけど、私の運動神経悪かったら怪我してるよ!
「美幼女のほっぺ……てぇてぇ」
…………8割くらい感付いてたけど、やっぱり変態だったか。
「だっこ、もういいから。おさわり禁止ね」
「そ、そんなぁ! 殺生なぁ〜!」
私は亀を頭に乗せたまま闊歩し始めた。
もう乗っかっちゃったモンはしょうがないと思っているのか、メイシーもとやかく言ってこない。
そうして歩き始める事、15分……。
「み!」
「ひだりね」
「みーみ」
「オッケー、まっすぐね」
「みみみ」
「そこの木、たおすの?……ちがう? え、何このタネ? くれるの? ありがと、そこを みぎだね」
「姫様何で躊躇なく亀にナビゲートされて進んでるんです!?」
貰った種を仕舞っていると、メイシーに突っ込まれた。
「……カメかわいい」
「洗脳されてません!?」
いや、洗脳は大丈夫だと思うよ。ただ何でかナビゲートしてくるのが面白くて、乗ってあげてたら思いの外良い仕事するなと思ってただけだ。
「あっちのほうから藤君たちの こえ きこえるでしょ?」
「うーん……私目は良いんですけどぉ」
障害物が多くて見えないようだ。数メートル前で倒れた大木が壁みたいに道塞いでるもんね。て言うか今更だけど、ここまで通って来たとこも、この先も……。
「根っこ、すげぇ」
踏むたび揺れるなって思ってたけど、木の根っこと根っこが沢山重なり合って、私達、地面から浮いてるじゃん。
「根っこが はいらないくらい ここのつちがかたいのかな……?」
「いやぁ、単純に精霊擬きが沢山いたんじゃないですかねぇ?」
「せいれいモドキ??」
首を傾げると、メイシーが、何処からか眼鏡を取り出してかけた。メイシー、開設する時形から入るんだ。
「精霊はぁ、始めから精霊として生まれるものと、そうでない者がいますぅ。精霊擬きはぁ、妖精から精霊になる途中の存在でぇす」
それから精霊擬きのレクチャーをしばらく受けたけれど、
「いこ。カメ、とぶよ」
「みぃ!」
飽きた。
「ぅえ!? いきなりですぅ!?」
亀がしっかり頭にくっ付いたのを合図に地面を蹴る。と、大木の向こうは木が少なかった。
ていうか……木は左右や奥にもある感じだ。大きな岩が見えるけど、開けた場所になってる。小石とか土が多くて、大穴が空いてるみたい。
「姫様ぁ、置いてかないで下さいよぉ!」
「ごめん……あ」
なんか言い争いしてるみたいな声!
「ああ……ここまで来れば私にも聞こえますぅ。岩の向こうですねぇ。何してんだか……」




