2-3 成長します
「はー? どこともめたの?」
「狐とらしい」
あぁ、ソレは口喧嘩で終わらない。
狐と天狗は、この世界では水と油。敵同士である。
大昔に女を巡って揉めたのが原因だ。
当人達はとっくの昔に死んでいるのだが、今も子々孫々にその敵対心の種を植え付けている。
尚、ジイジは狐など完全スルー派だし、私も思うところは無いどころか、寧ろモフモフの尻尾とケモ耳に好感を抱いているのだが、あの父親は私の曽祖母に色々吹き込まれて『狐憎し』となったらしい。
しかし、だからこそ何方の一族も気をつけていた筈だ。
マジの決闘は合法的に相手を殺せるが、代わりに武力以外で物事を解決出来ない馬鹿のレッテルも貼られる。
狐と天狗は挨拶程度ならまだしも、話し合いレベルでもう火花がバチバチ行き交う。故に社交の場に出れば、何方の一族も極力関わらない筈なのに……何で今回揉めたの??
「夜凪がな……次の頭領になるのを嫌がっているという噂を聞きつけた狐の若いのが、現世の会合で炎上させちまったらしい」
あれー? もうそんな時期?
私は次の大福に手を伸ばしながら、『碧空は今日も』の原作を思い返した。
主人公、鞍馬夜凪は神童と持て囃され、最初は天狗の頭領となる未来に何も疑問を抱いていなかった。しかし現世で人の子に混ざって学校に通うようになると、妖とは価値観の異なる広い世界にも目が行く。
寧ろ、天狗としての暮らしを煩わしく思うだろう。
兄は常世との行き来もしていないし。今は中学に入ったところ。
原作は高一からだから……うん、人間として普通に生きたい願望抱いてるな。
「そんで、兄ちゃんのケツふけと?」
「あの阿保は、夜凪を死なせん為なら何でもするからなぁ」
この件……兄ちゃん的にはどうなんだろう?
実は私は、まだ兄ちゃんと一回も会って喋った事が無い。阿保親父が兄ちゃんを常世に来させないし、私もあまり現世に行かないからだ。
故に、兄ちゃんの人柄は漫画の知識でしか無い。もし漫画通りだった場合、バチ切れるだろうなぁ。責任感強いから。
「てかこれ、私うけたら天狗はこのさき末代までわらいものでは?」
12歳男子の買ったケンカ、4歳女児が後始末するって、死ぬほど恥ずかしい話でしょうよ。
良いのか鞍馬本家? 分家連中がこぞって突いてくるぞ。
「はっはっは! 面白い事を言うな。魔物300体の首を一瞬で狩れる天狗が代表で出るのに、恥ずかしい事あるもんかい」
「ジィジは600も狩った。300なんてフツーじゃん」
「そうだなぁ、ククッ……普通だなぁ」
えっ、何その含みのある言い方。もしかして私ってば井の中の蛙? 300は少ない方!?
「……もっと特訓する」
「おー、しろしろぉ。ただ大福は頬張ったまま歩くな」
「んー!」 ←頬を突かれる。
ちぇっ、長く味わおうと思ってた一口。
なんでバレたんだろ?
バレた理由:明らかに片方のほっぺがたが膨らんでたから。




