15-1 畳についてです
鞍馬邸の家具一式を注文している店や工房が集まるカナカナ横丁。
いわゆるお忍びの外出である。
……甚平が良かった。着物、薄い生地のだけど動きづらい。
ジィジのお説教後、私は藤紫さんと、いつもハートな目で私を見てくるメイドさんことメイシーさんと、私が駄目にした8畳分の畳のうち、3畳分を発注しに来た。
通常なら家、壊れた箇所は多く無い限り術ですぐ自動修復されるんだけどね、何でか5畳分しか修復されなかったの。
メイシーさんと藤紫さんが何か知ってそうだったけど、怒られて萎れてたから聞く元気が無かった。
畳返ししようとしてただけなのに。最後の一枚で『これは出来そうかも!』と思って叩いた瞬間、今まで叩いた箇所が全部陥没するってどんな怪奇現象さ……。
「お嬢様ぁ」
お忍びなので、姫様呼びを控えているメイシーさんに「なぁに?」と返す。
「そのぉ……呼び方の『さん』付けを止めて頂きたく……私達、使用人ですのでぇ」
あぁ、そうだった。この先色々と弊害が出ちゃう。
「ごめんね、メイシー」
「有り難き幸しぇ!!」
「なんて?」
呼び捨てにしただけで鼻血出してる。怖っ。察してはいたけど、メイシーはヤバい枠の子だ。気を付けよ。
「藤紫もごめ━━」
いきなり綺麗にスッ転んどる!!
「だ、大丈夫……さっき折れた肋複数本に比べれば……」
何処でそんな重傷を?
「藤紫が嫌だった? なら、どうしよう??」
「いや……! 全然嫌とかでは━━!」
「『藤君』?」
「有り難き幸しぇ!!」
「それ はやってるの?」
そうこうしている内に、畳屋さんの前だ。
……あれ? 数ヶ月前に通りかかった時は、お店の中畳だらけだったのに、今全然無い……売り方変えた?
その違和感の状態を知るのは、数分後の事。
「販売休止ぃ!?」
「はっちゅうも不可!?」
「申し訳ございません!」
私と変わらないサイズの、着物を着てる川獺が申し訳なさそうに頭を下げている。可愛い。絶対怒れない。
「イ草がお店に入って来ないのです。そのせいで新しい畳を作れず、今ある在庫は全てもう販売先が決まっているのです」
成る程、材料が入ってくる目処もまだ立たないんだね。
別の畳屋さん……領内で一番大きいこのお店で無いなら、絶望的か。
でも、何でそんな状態に??
「この周辺の領地に入るイ草は、霧ノ香産です。しかし、少し前から霧ノ香地区の狩人達との連絡が取れず……」
川獺さんションボリしてる。可愛い。ドサクサに紛れて撫でても良いかな?
「霧ノ香……って、麦姐さんがさっき行ったとこだ」
藤君がポツリと溢す。
ついさっき話してた狛犬さんの領地だったのか。
「それ、この一件と関係しているのではぁ? 最初から水沫先輩が投入されていたんですよねぇ?」
「麦穂、ざつむって いってたよ?」
「先輩からすればぁ、姫様関わらない仕事は全部雑務ですよぉ」
成る程ねー。あれはフラグだったわけだ。
ところで私、川獺さんの話で凄く気になった事があるんだよね。
「イ草って、カリュウドさんがしゅうかくするの?」
さっき確かに『狩人』と言っていた。私の前世の記憶では、イ草農家さんが育てた物で畳は作られていたんだけれど、……これ、イ草の栽培が未だ成功してないのなら、成功すれば時間はかかるけど普通に解決するよね。いや……時間をかけなくてもいける。霊力は植物の成長と相性が良い。原則やらない方が良いけど、今回は緊急事態。だから私が本気で力を使えば、1日で収穫出来るまでい草が育つ。
「はい、狩ってもらってます。轢き殺しに来ますので」
ニュアンス変じゃなかった? ……轢き??
「イ草って、しょくぶつじゃないの?」
「植物の仲間ではありますよ。妖精の一部ですから」
妖精と植物って仲間なんだ。
「狛犬があの地区を任されているのは、妖精が多いからなんです。狛犬は妖精と話が出来る数少ない種族ですから」
藤君が分かりやすく説明してくれた。勉強になる。
「……ねぇ、川獺さん。じぶんたちがひつようなぶんのイ草とってきたら、つくってくれるところある?」
この場の全員がポカンと口を開けた。そんなに変な事言ったかな?




