14-1 何か起きそうです
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藤紫さんの話によると、水沫君はとても面倒見が良くキャパオーバーしても頑張るお人好しな性格だから、トラブルに巻き込まれてそこに可愛い女の子まで居ると、必ずその子をその気にさせてしまうらしい。しかも、無自覚になまじ言葉選びが良いから、女の子怒らせて好感度急降下させてもすぐ急上昇させちゃう恐ろしいタラシらしい。
水沫君、良い天狗だと信じてたのに……。
彼は何処の世界のハーレム主人公なんだろうか……。通りで何時も違う女の子くっつけてると思った。まだ食い散らかしてないだけマシだけど、そこしか救いが無いね。
「そんな女性の敵━━じゃ無くて先輩は今回、狛犬の当主の娘と関わったみたいで」
今『女性の敵』って断言したな……。その通りだけど。
「狛犬……あぁ、私と学生時代同期だった彼女ですか」
「麦穂のがくせいじだい?」
今20代前半の見た目の麦穂が学校に通う頃、10代半ばの辺りって江戸時代後半くらいだよね? 今の時代、私達が学校行くってなったら普通に現世の中学校や高校に行く訳だけれど……その頃ってどうしてたのかな? 小さい子なら寺子屋?
「高天原に今の現世の大学のような教育機関が有りまして、そこに通っていたのですよ。今のあそこは、もう妖が通う事は出来ませんがね」
高天原━━常世の雲の上にあって、神様や仙人、神獣達だけが暮らせる場所。特殊な結界があって、今は現世を経由すれば行けるけれど、直接の行き来が出来ない場所だ。
「しかし彼女、生きていましたか……。てっきり引きこもりの末自害でもしているものかと思っていましたが」
「仲わるかったの?」
麦穂は「いいえ」と言いながら、ビニールに包まれたチョコレートを口に放り込んでくれる。んまんま……。
「遠目に見る事が時々あるくらいで、全くもって関わらなかった生き物ですね。関わりたいとも思いませんでした」
狛犬さん、もしかしなくても性格に難があった感じだな。
「もう良い年でしょうに、水沫のようなガキに熱を上げるとは嘆かわしいですね」
うん、そうだね。妖は一定の年になったら成長止まって、年齢差気にならなくなるから例えが難しいけれど、未成年に手を出す成人女性に近いかも。
水沫君と藤紫さんはまだ見た目通りの年齢だから、麦穂達からしたら小学生レベルだよね。……よく考えたら、普通に気持ち悪いな。
「まぁ、水沫1人消えたくらいで━━」
「死んでんだよね」
なんか、ホラーの香りがちょろっとした気がする??
「狛犬族の当主の娘━━社 昼顔は、数年前に亡くなってる」
「つまり、めいこん?」
未婚のまま死んでしまった人のために、遺族がせめて死後の世界で伴侶を与えてあげようという、大陸方面から伝わって来た風習だ。死んでる者同士か、死者と生者を結婚させるんだよね。
現世では珍しい風習だけど、常世ではやってる人そんなに珍しくないよね。
僵尸みたいなゾンビ系の種が居るから。
「気になりますね」
不意に、麦穂の反応から面倒臭さが消えた。
「どうして?」
「狛犬は結婚は生者同士で行う物……手っ取り早く言いますと、冥婚を毛嫌いしているんです」
それは確かに気になる。でも、たまたま今の当主が冥婚を受け入れてるだけって気もする。
「ちょっと行って来ます」
「「今から!?」」
驚いている私達を置いて、麦穂は畳を叩いた。すると畳がくるりと回って、大きめの旅行鞄が顕になる。人参の側がちょっと可愛い……じゃ無くて何その絡繰!? 私ソレ知らない!
「夕刻までには戻ります。ついでに水沫も……忘れてなければ回収して来ましょう」
「わすれないであげて」
居間を後にする麦穂と、慌てて追いかけていく藤紫さんを静かに見送ると、私は畳返しに挑戦し始めた。
……この辺叩いてたよね。あれ? こっち?




