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12-1 六華将です

(三人称)


「はっはっはっは!!」


 天井からの光が無いその一室は、床の下が、光る不思議な池だった。故に床はガラス張りにし、真ん中の円卓もガラス製だった。

 池の中を錦鯉や金魚が泳ぎ、水草が涼しげに揺蕩う。だが、その美しさに気を取られている者は、誰も居ない。


 彼等の視線は円卓の中心、霊力で具現化された初雷領での一連の出来事に釘付けだった。


 愉快愉快と笑う男━━彩雲は、自分の皿に置かれた饅頭を手掴みで口に放り込む。

 彩雲の他にこの部屋に居るのは、王である鬼と、その分家の長老数名、そして龍族を除いた六華将の頭領や、前頭領達だ。


「お前さん等、これでもまだ半妖云々抜かすのか? うちの孫も中々おかしいが、簪姫も化け物の素質が高いぞ?」


 彩雲が問えば、王も頭領達もギラリと目を光らせ、問いかけられた方を見た。

 だが視線の先にいる4名の長老達は、涼しい顔で茶を飲んでいる。


「姫様は成長されましたな」

「えぇ、虎の一族は全く……見る目が無い」


 4人のうち2人が口を開いた。まるで、周囲の視線には気付いていないかのような調子である。


「まぁ、所詮は獣ですからな。おっと……獣といえば、先日天狗に面目を潰された獣が、此処にもおりましたなぁ」


 長老の1人が徐にニタリと笑いかけたのは、彩雲の右隣━━御前試合に来ていた狐の先代頭領だ。

 この男も、明らかな悪意に対して涼しい顔である。


「別に潰されてないよ。アレは極々一般的な掃除だからさ」


 チューと飲んでいるのは、茶では無い。タピオカミルクティーである。しかも、よく行列が出来ている某有名店の黒糖タピオカのミルクティーだった。何人かが羨ましそうにしている。


「お陰で要らない孫(※偽)は消えたし、塵みたいな嫁もあの後駆除(※物理)出来たからね。清々しい気分だよ……ホント、君等が余計な真似さえしなければね」

「余計な真似?」


 今まで、全く口を開かなかった1人が濁った目でジトリと見据えた。


「殺生石」


 初雷領での七夜月と簪の行動は、2人が水晶部屋に入った瞬間から見られていた。

 よって朧が殺生石を奥歯で噛んで使ってみせた瞬間も、シッカリ全員の脳裏に刻まれている。


「あんなモン渡しちゃってさー、俺等()が疑われるじゃん。今時あからさま過ぎてすぐ容疑晴れるけどさ、気分は最悪」

「疑う? ……何を仰っているのやら、確定しているのですよ」


 濁った目の長老は、穏やかに笑った。


「よくも儂等の同胞を丸め込んだな狐━━雪椿(ゆきつばき)よ。偽とはいえ孫を殺されたからと、姫様を贄にしようとした罪は重いぞ」

「『贄』、ねぇ?」


 その瞬間、頬杖をつく雪椿を背後から囲むようには雑面を着けた黒い影が数体現れた。


「あれぇ? 口と違ってメッチャ焦ってるじゃん」

「焦っているのではありません。さっさとこの馬鹿げた茶番を終わらせたいだけです。たかだか、角持ちと言うだけの小娘にこれ以上割く時間は━━━━」


 何の音も無く、円卓に一つの首が転がった。

 背後には、何処となく王に似た顔立ちの少年が1人。絶対零度の瞳を持つ彼の手には、刀が一振り握られていた。


「ひぃ!?」


 長老達の顔が恐怖に歪む。

 ソレとは対照的に、彩雲達は呆れた表情だった。

 今まで無表情で黙っていた王も溜め息を吐いている。


「済まぬな。《《2番目》》は血の気が多い」

「王よ! どういう事ですか!? 審議の場に帯刀した王子を呼ぶなど」

「審議? そうだったか天狗?」

「耄碌してんだろうよ。此処は断罪場さ」


 たった今発言した長老の心臓部から長い刀身が突き出される。

 首を刎ねられたなら即死だが、心臓一刺し程度では妖にとって致命傷では無い。

 そう思った所で、真下へ刀身が進み、また真横に一線。上半身と下半身が分かれて死んだ。


 ゆらりと、刀を持った悪鬼が次の獲物を見据える。見据えられた方は、縋るように王を見た。

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