11-1 魔物です
1話目にも書いておりますが、カクヨムではもう少し先まで公開しています。
気になる方は是非検索してみて下さい。
とんでもない衝撃だったもんね。
そりゃ異界との断絶結界に影響しますわな。
数メートル先で、空間が捻れて亀裂が入っている。何なら、亀裂は開いてすらいる。咆哮は、その中から響き渡っていた。
「簪、もういちどツノだせる?」
「七、今初めて妾の名前を……!」
「ツノだせる?」
亀裂から鋭い爪を持つ毛むくじゃらの腕が出てきて、亀裂をより広げている間に急いで確認する。
出せないならお荷物だからだ。名前は確かに今初めて口にしたけど、後にして。
「ふっ、余裕じゃ」
簪が再び綺麗な角を出す。
直後、忙しなく動く六つの目が見えた。
それは、穴熊と人が融合したような灰と黒の魔物。上半身だけ亀裂から出て来たかと思えば、魔物はまた咆哮を上げた。
天に向かって、何かを請うように。
即座に、別々の方向に跳んで避ける。殺意の高い尖った岩が、複数地中から生えた。
上向いて吠えたくせに地中からって、狡い真似を。
全身が出る前、跳んでる最中、風を操って上半身を切りに行く。
すると、また咆哮が上がる。今度は風が打ち消された。……いや、手応えはあったから、消されたのとは違うな。硬化だ。
オーケー、私達風に言うなら、この穴熊擬きは騎士系じゃ無く術師系だ。腹筋バッキバキに割れてるクセに、紛らわしい!
魔物は全身を露わにすると、また吠えた。
長い咆哮は空間を歪めて、今度は空から鋭い岩の雨が降って来る。
早い、多い、何とか避けれてるけどジリ貧!
「黙れ害獣がッ!!」
簪が告げるや、微かにビビッと背筋に何かくる感覚。これ、御前試合の時使ってたあの威圧? 魔物に効く??
「ゥグ……!?」
効くんだ!?
「よく、今の、きくってわかったね?」
「如何にも、脳筋なナリ、しとるからの。精神に直接作用するもんは、効きそうな気が、したんじゃ」
思ったより理由浅かった。
でもチャンス。今のうちに息を整え……! 亀裂が閉じて無い。中から、もう一体分の気配!
━━ギョロリ。
「……っ!」
その瞬間、反射的に翼を広げていた。
「あなぐまもどきおねがい!!」
「七!?」
あの穴熊擬き1体なら、簪でもどうにかなる。
でも、次出て来ようとしているのは、もっと強い。私達でどうにか出来るか分からなかった。
異界の住人がこちらへ来る時に亀裂が入るのは、もはやお約束だ。だから対策はある。さっき手が既に出てたみたいに、空間を魔物が通過している最中はもう使えないけれど、まだ通過前なら封印札で亀裂を閉じられる。
穴熊擬きが手を出す。
けれども口は閉じたままだ。
ならもう術は来ないと思った。
でも視線がバッチリとかち合った瞬間、咄嗟に翼を閉じる。
地面に手をついて、回転するように前方に逃げた私は、丁度跳んでいた所の少し先を見た。
的確に翼を狙って、斜めに岩が二本突き出している。アレ吠えなくても出来んのね。滅茶苦茶危なかった。私偉い。
同時に、穴熊擬きは阿保だなと思いながら札を取り出した。
初雷領では、封印札は常備品です。テストに出るゾ!
足止めをしたかったんだろうけれど、前方に転がった時点で、もう私のすぐ目の前に亀裂はあった。
霊力を込めて、ピョンと跳んで即座に貼り付ける。
━━ふぅ、完了!
札を中心に、宙にびっしりと封印の呪文が描かれて亀裂が歪む。
クルクルシュルシュルと小さくなっていく……と、同時に……。
ヒュゴッ
風を斬る音。二本の腕が私を捕まえようとして、でも獣の口が先に私の肉を噛んだ……筈だった。
「……!?」
ブレた視界に戸惑うのは、本当に一瞬の事だった。
腕と口、どれが一番に私を捕まえるかという所で、左腕を羽根で作った扇で斬り飛ばしながら、私は前方に突き進んで避けた。
そしてまた、上から風の音がした。私が居た場所、今魔物の頭がある場所の上。
大鎌を振りかぶる簪が、首、胴、足を━━目で追えない程早い連撃で解体した。
各々の部位が、地面に落ちる重たい音。
首を飛ばして生きてるのは滅多に居ないけど、油断したら平気で死ぬ。『その大鎌何?』って聞きたいけれど我慢する。
穴熊擬きの死体が消えるまで。消えて魔石の落ちる音を聞くまで。
気を抜いてはいけない。
━━━━ゴト。
「「…………っぷは!」」
無意識のうちに、息止めてたー……。
大きいビスマス鉱石みたいな魔石が落ちたのを見た瞬間、二人してその場に寝転ぶ。正直他の場所にも魔物が現れてるんじゃないかと心配だけど、スタミナ切れだ。
「ひさしぶりに焦った……」
「初雷領でも、今のレベルのはそう出ないのか?」
「……よくでるけど、あいつ……能力のハツドウそくど、おかしかった」
妖術、魔法、異能。魔物によって使う超常的な能力は異なる為、あの穴熊擬きが何を使っていたのかは分からない。が、どの能力であれ火・水・風・土のどれかを殆どは使う。強さはその属性をいくつ使うかで大体分かれる。今の狐擬きなら土の一つだけだ。サイズも大柄な人間と変わらなかったし、本来なら梃子摺る相手じゃ無い。
でもあの異常な発動速度、あと中途半端に知恵が有ったのが厄介だった。能力の発動条件を『咆哮』だなんて、フェイクをかましてきた。
魔物には知性が無い。いや、この言い方だと語弊があるな。『思考が出来ない』……うん、こっちだ。
それは『碧天は今日も』でも読んだこの世界の常識。……なるほど、これが所謂━━
「━━きなくさい」




