10-1 綺麗な角です
(簪視点)
「妖が常世に追いやられて千年……。それでも人間達は、妖の駆逐を止めようとしない。人に害をなす妖など今の時代もう存在しない。ソレはもう妖魔と呼ばれる別物だと説明しても、人間達には区別が付かない。弱き物は、ただ蹂躙される。
故に妖の王は絶対的な強者でなければならない。己だけで無く、全てを守れるように。一人も取りこぼさぬ様に」
朧の言っておる事は正しい。
妾も、そう教わった。
今の妖と人間は概ね共存していると言えよう。じゃが、その平和は仮初のものに過ぎない。何処まで行っても、妖を憎む人間は居るし、人間を憎む妖も居る。常世と現世で、大方棲み分けが出来た為に全面戦争が無くなっただけじゃ。
現に、現世で暮らせる妖の数は、とても少ない。
妖を狩る陰陽師等から自衛出来る程、強くなければならないから。
「なのに……、妖よりも弱い半妖に王位継承権を持つ者が居るだと? 許せる訳が無いでしょう……っ」
…………は?
ちょっと何言っとるのか分からんのじゃが?
「罷り間違っても! お前の様な周囲を狂わす半端者を王にしてはいけない! そう思って俺は━━」
頭を蹴飛ばし、水晶の壁を壊す勢いで刺さった胴を、更に奥に縫い付ける様に蹴り潰した。
よく分かった。理解した。
此奴は、勘違いで妾の大切な人達を殺した……ッ!!
地響きが鳴り、真正面から血を浴びるが、妾の足は止まらない。
「このッ、究極のッ、阿呆があァァア!!」
背後から「ホウラクするー!」と叫び声が聞こえるが、多分まだ大丈夫じゃろう。
「あ゛……ゔぁ……?」
最早、這う力も無いらしい。
血を吐き、白目を剥き、自分がどうなっているのか、理解が出来ておらんのじゃろう朧の前髪を掴んで、無理やり目を合わせる。
「柊恩寺の者が次の王などと、何処のボケがほざいとるんじゃ!? お主、何故後ろの天狗も『姫』と呼ばれておるのか、全く分かっておらんのか!?」
返事は無い。血液だけ吐き出される。
「確かに、現王は妾の父様で、妾は王族じゃ。じゃが王位継承権は、妾にも兄様達にも無い!」
王は300年に一度、王戦を行い六華将の代表者から選ばれる。だが2度建て続けに王を輩出し、600年の間王族となった一族は、次の王戦には出られない。
だから次の王は、鬼以外の六華将から選ばれる。
そんな事、何処の家でも教育される筈じゃと言うに……ッ!
「その決まりが…………次から、無くなる可能性が有るんですよ。次の王戦まで、……もう、10年も……がはっ、無い」
「父様は、そんな事望んで━━」
「陛下は、そういう方ですが……分家は、違う。あの手、この手で……他の一族に、根回しをしている……」
……ッ!! 王族という蜜を吸い過ぎて太った糞豚供ッ!!
「あ゛ぁ、馬鹿な事をした……。半妖なのに、『角持ち』? そんな、矛盾した存在が有り得ると、知っていれば…………ずに、済んだのに」
バキリッ、と。
何かの砕ける音が響いた。




