9-1 水晶部屋です
扉を開けて、長い長い坑道の様な道を進んで辿り着く。
山の中腹にある天然の水晶洞窟を改造した水晶部屋は、意外に広かった。
壁も天上も、青白く光る水晶で覆われたそこは、幻想的であると同時に、圧迫感で胃が気持ち悪くなりそうな空間だった。
鎖でこれでもかと言う程拘束されている男がいる。言わずもがな、裏切り者の護衛だ。
片方の肘から下が筆舌つぐし難い大惨事になっていて、片方脚が無い。この地域の物が、少し特殊な成分を含んでいるのも有るんだろうけれど、水晶って凄いな。本来数分有れば再生してるんだろうに、全然しない。……ちょっと違うか、再生速度が遅過ぎてソレが分からないんだ。
「こんにちは」
「…………私が呼んだのは七夜月様だけです。何故、半端者までいるのでしょう?」
半端者ね……。内心ではそう呼んでたんだ。
「あなたに言いたい事、というか……やりたい事? があるみたい」
そう告げると、護衛では無く、簪が目を丸くして私を見た。
全く、気付かないと思ったんだろうか。
けれども、先に私の用事を済ませよう。簪はその後だ。
「この子のこと『はんよう』ってバラしたのは、あなた?」
「……答える前に、聞いて欲しい事があります」
いや、聞いてほしかったら先にこっちの質問に答えろや。何様だよ。
さぁて早速、楽しい楽しい実験の時間です。
これを試したくて来た訳だけど、こんな秒で試せるとは正直思っていなかった。
━━目に霊力を集中。
神通力で大事な物は、あまり良い言い方では無いが『思い込み』がしっくり来る。何かをするというイメージだけでは無く、『ソレは出来て当たり前』と、脳に刻みつける事だ。私は前世人間だった記憶もあるし、そこまで自信家では無いから、そのレベルに行き着くのに、いつも時間がかかる。
だって人間は飛べないんだよ?
例え翼が生えたとて『お前は飛べる! 絶対だ!』て崖からブン投げられて、いきなり飛べる奴何人いるよ?
『飛ぶって、テレビで鳥が飛んでる感じで良いの!? よよよ、よし! 飛ぶぞ飛べるぞ私は飛ぶんだ! いやタンマ! やっぱ高い怖い無理無理無理! 落ちる落ちる無理ぃぃいい!!』
……これ(↑)、私が初めて飛ぶ訓練に駆り出された時、内心で喚いてた内容である。口からは普通に汚い悲鳴が出てた。飛べるようになるまで、何度も地面スレスレで突風起こして不時着したのが懐かしい。
今回はあの時に比べれば簡単だ。失敗しても死なないって素晴らしい。
あの阿保親父が『千里眼』なる物を使っているらしいので、私も使ってみようと思う。
この護衛がトンチンカンな事を宣っても、内心が覗けるなら話が早い。
大丈夫。私なら出来る。そろそろ、前世で読んだ転生物定番のステータスバーらしき物が浮かんできた気がす━━。
「貴方様は、自分より弱き物が王族で有る事をどう思われます?」
……おいコラ、話聞くなんて私言ってないんですけど?
浮かんできたものが空気中に溶けて消えてしまった。
全く、集中してたのに邪魔してくれちゃって。やり直しだ。
「私は、上に立つ者ほど強く有れと教えられました。下の者を守るために。しかし、王族の中にはどう足掻いても上位者になれない者が居ます。その上、周囲に混沌を振り撒く疫病神です。そんな者は、即刻処分するのが正しい━━」
「きょうみない」
「━━え?」
何でそんな完全フリーズするかな。
何度も言わせないで欲しい。
「きょうみない」




