8-2 夜更かしと翌朝です
そして、現在。
綺麗さっぱり呪いは解かれ、普通にお喋りが出来るようになった簪と朝食を取っていたところ、
「あの馬鹿者、尋問したのですが姫様にしか喋らないと言っているんです」
コレが、実は昨日の夜にガタガタ窓揺らしてた雨と風が、ジィジの仕業だったと報さてた直後の報告だ。
寝る頃には嵐通り過ぎてたんだ。ジィジ凄ーい……なんて感想、一瞬で終わる。
「妾にか……」
「いいえ、うちの姫様です」
「「は?」」
全くもって意味不明なんですけど??
「いちども、話したことないのに??」
昨日此処に来た理由をジィジに話してた時一緒に聞いてたけど、個人的に話した事は無い。
「応じる必要は無いと思いますが、ご報告だけでもと……」
「いまって、どうしてんの?」
「藤紫が指を例のチーズみたいに割いてます」
藤紫さんて誰だっけ? ……あ、ジイジの側近の目隠れ金髪男子か。よく見かける割に話した事あんまり無いんだよね。
「そういえば、ジィジは?」
「今朝早く水沫を連れて王都に飛ばれました」
水沫君は知ってる。側近護衛の癖毛の苦労性男子の方だ。話すとよくお菓子くれるから好き。
ジイジ居ない時はよく女の子と一緒にいる上に、その女の子の顔ぶれが毎回違うけど。悪い人では無いと、今はまだ信じている。
「そっか、なにをほざくつもりなのかな?」
「……会うんですか?」
「うん。ためしてみたい事あるんだ」
すると、簪が待ったをかけてきた。想定出来ていたため、落ち着いて対応す。
「妾も同席するぞ!」
「すいしょうの部屋だよ」
私は大丈夫だが、簪にはきつい筈だ。
「問題無い」
えぇ……、マジで言ってる?
「たおれたら引きずってくけど良い?」
あそこは麦穂が入れないからね。倒れたら必然的にそうならざるを得ない。
拷問してる藤紫さんは大丈夫なのかな?
「構わん。許す」
またしても言い切られる。
……あ、そっか忘れてた。この子連れて行こう。
普通に廊下、縁側、そして長い渡り廊下を真っ直ぐ進む。
水晶部屋は、うっかり踏み入ろうものなら死にかねない部屋だ。
人の出入りが多い本館からずーっと離れた場所。別館よりも更に向こうの、山の中腹に造られている。水晶の洞窟を、人が最低限寝泊まり出来るくらいに弄っただけとも言う。
辿り着くと、私は大丈夫だけれど、麦穂は顔色が若干青かった。
「麦穂、もどっていいよ」
「ですが……」
「ここでもキツいんでしょ? ムリさせてごめんね。戻って、ほうじ茶いれてて」
「お気遣い、有難うございます。ですが、此処で待ちます」
私の目をしっかりと見据えて言い切る麦穂は格好良かった。
「わかった。じゃあ、行って━━」
「麦穂姐さーん、アイツ信じらんないくらい強情だわー!」
先に扉が開いて、思わず固まる。
高校生くらいの目隠れ金髪男子━━えーと、藤紫さんが出てきたからだ。
扉のすぐ前に居たのだから当然だが、藤紫さんも私達の姿があって驚いたのか固まっている。
……ていうか、声初めて聞いた。
前世の推し声優に激似だ。
ヤバいニヤケそう。
「何で……姫様達が、此処に??」
緊張してるような声音も良いね。
「そんなの言わずとも分かるでしょう?」
「分かりたくないから敢えて聞いたんですけど!?」
「喧しいぞ」
麦穂の敬語が抜けた!?
思わず目を剥いたら、「お気になさらず」とニッコリ返される。いやいや、お気にしちゃうよ! 同僚にはそんな感じなのね、意外な一面をこんな所で知りたくなかった。
すると「姫様方……」と、またなんとなく硬い感じで話しかけられた。
「考え直しましょう? 簪姫様なんて特にです。自分を……殺そうとした相手なんですよ」
「だからじゃ」
私より先に簪が口を開く。
「勘違いしておるようじゃから断言するぞ。妾は、アレを恐れた事は一度も無い」
「ですが……」
「気遣いは感謝する。じゃが、アレは元々、《《妾が招き入れた者》》じゃ。だから妾が行かねばならぬ」
その言葉に、藤紫さんは閉口せざるを得なかったようだ。
何も言わないので、さっさと横を通り過ぎる事にした。
「あの! ……七姫様!」
姫様が2人いるからだね。慣れてない呼び方だけど、すぐに自分の事だと分かったので立ち止まる。
藤紫さんは此方に近付いて来ると、ポケットから何か取り出してしゃがんだ。
「念の為、これを」
渡されたのは、木製の細い呼子笛だった。
「何かあったら吹いてください。駆け付けて奴を始末するんで」
「……あ、ありがとう」
今度こそ私達は中に入って行った。
にしても、ちょっとだけ驚いちゃった。呼子笛……。漫画にコレとよく似たの持ってたキャラ居たんだけど……名前違うし、目隠れキャラじゃ無いし。……違うよね。




