表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/127

7-2 お喋りします

(三人称)


 その男は屋敷を出ようとしていた。雨音と風音、共に勢いのある音が響いているが、男は妖の中でも群を抜いて丈夫な種だ。気にする程でも無い。


 そう思い引き戸に手をかけて開ければ、


「こんばんは」


 ニコリと微笑む、茶色い髪の可愛らしい顔立ちをした女が居た。男は名前まで覚えていなかったが、七夜月の侍女だという事は直ぐ思い出せた。

 一瞬驚いて表情が消えたが、直ぐにハッとして声を上げる。


「こんな雨の日に何故外に居るんですか!? 危ないですよ!」

「━━雨? 何の事でしょう?」


 侍女こと麦穂は、笑みを浮かべたままコテンと首を傾げる。

 そこで男も気がついた。

 雨も降っておらず、風の音もしない。

 蛙や虫の声が響き、星々が天を覆っている。


「あ、れ? さっきまで確かに……」

「お疲れなのでしょう。お休みくださいませ」

「いいえ、やはり出ます。今でしたら王都に早馬を飛ばしてこの状況を伝えられますから」


 男は麦穂の横を通り過ぎる。

 楽に出られるなら、それに越した事は無いからだ。


「この状況を何方に伝えるのです?」


 問いかけの際、麦穂は振り向かなかった。


「勿論、味方ですよ」


 男は、嘘は言っていない。



 ただ男の味方が、主人である簪の味方だとも、言っていない。



「さようで御座いますか」


 麦穂がそう言うや、男は抜刀した。

 狙うは麦穂の首だ。が、彼女はそれをたった一歩で避けた。羽のように軽い跳躍。

 地に足をついた時、その頭部には髪と同じ色の長い耳があった。


「兎……? 愛玩用の種が何故姫君の侍女などしている? 貴様らは花街にでも居てろ」

「柔軟性とモラルの無い事。兎が閨事しか出来ないとお思いだなんて……脳みそが化石なんですね」

「殺すぞ」

「やってみろクズ」


 互いに武器を強く握る。

 男は先程と同じ刀を。

 麦穂は短刀を。

 だが、男側を無数の銃弾が襲った事で、2人の間に立ち込めていた殺意の向きが変わる。


「あっぶな、麦姐さん何してんの!?」


 目元が隠れている金髪の青年の焦り声と、


「貴女が挑発されてどうするんですか!」


 黒の強い癖毛に、ライラックの目の青年の焦り声。

 彩雲の側近である2人だ。彼等はずっと屋根の上に控えていたが、麦穂が予定に無い行動を取った為慌てたのだ。

 ……そして直ぐに後悔する。


「夜中に銃火器は使うなつったろ愚物供。姫様達が起きたらどうする?」

「「ゴメンナサイ」」


 低すぎる声と、猛烈なブリザードを思わせる形相に、2人はヒュンと縮こまった。

 青年2人はカーキの軍服で、麦穂は着物にフリルエプロンなのに、後者の方が鬼軍曹の風格を備えているのは何故だろうか。


 しかし、撃たれた護衛はそんな事を流暢に考えている場合では無い。

 銃で打たれれば、普通の人間なら怪我は必須、死ぬ事だって珍しく無い。だが、彼は鬼だった。鉛玉など綿も同然。傷一つ付かないし、付いたとしてもすぐ完治する━━━━筈だった。


 肩、腕、腹。頭は避けたが、立ち上がれない程の重症だ。聞き慣れない血液の早く動く音が、彼に焦燥感を植え付ける。


「何だ……その銃は?」

「ん? ……何って、文明の利器?」


 答えたのは側近の片割れだ。


「巫山戯るのも大概にしろよ、鳥風情が……」

「姐さぁん、コイツの頭蜂の巣にしちゃってよき?」

「よきよき」

「良くない。ここ俺以外煽り耐性ゼロなの?」


 金髪の青年と麦穂のやり取りに、癖毛の青年が静かにツッコミを入れる。


「鬼に傷を負わせる銃だと? ……天狗は、謀反でも企んでるのか?」

「はぁ? 傷っつってもアンタもう結構治ってきてるっしょ。この程度で謀反疑うとか、どんだけ小心者なの?」

藤紫(ふじむらさき)


 金髪の青年━━藤紫を嗜めるように、癖毛の青年が肩に手を置く。


「先輩だってそう思うっしょ?」

「今そこは関係無いだろ」

「あぁ、お前が藤紫か」


 2人のやり取りを遮った護衛は、ニタリと暗い笑みを浮かべていた。


「大天狗に飼われた呪わ━━」


 面白いオモチャを見つけた反応で何か言いかける護衛だが、首をへし折られる方が早かった。


「俺、下らねぇモン突いて粋がる馬鹿嫌いなんだよ」


 汚物を見る目だった。

 今し方まで自分と麦穂を止める側だった癖毛が、いきなり頭を蹴飛ばすという一番アグレッシブな行動に走ったのだ。


「先輩ソレは死んだんじゃない!?」

「ダイジョーブ。鬼ちゃん丈夫な生き物だから」


 折った張本人は、へし折れた首を容赦無く引っ掴み無理やり元に戻すが、当然綺麗に元通りとはならない。

 不自然な形で固定されると、水晶で出来た鎖を無理矢理首に装着して引き摺っていく。


「姐さん、コイツ水晶部屋に突っ込むんでしたよね?」

「えぇ」

「先輩、僕やんよ。先輩も彼処ダメじゃん」

「大丈夫だ。慣れてるから」


 大抵の妖にとって、大量の水晶、翡翠、瑠璃は毒だ。七夜月のように、体の部位が水晶化するような一部の者には効かないが、それ以外には平衡感覚を失わせ、立っていられなくする。

 故に妖の罪人などを収容する施設の素材には、基本的にソレ等の石が使われる。

 そして鞍馬邸の場合は、尋問室(※拷問部屋とも言う)が水晶洞窟になっていた。


「巻き込む相手を間違えましたね」


 麦穂は彼等の後ろを歩きながら、綺麗に笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ