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69-2 猫とテロです

「水沫君水沫君水沫君ッ!!」


 ちびりそうなくらい怖くて、水沫君の肩をバシバシ叩かざるを得ない。……ていうか、ちょっとちびったかもしれない。泣きたい。


「あー、前衛アートっす。無視で」


 嘘でしょ!? 確かに魚か大きな梟みたいなフォルムしてるけど生き物じゃ無いの!? 滅茶苦茶リアルなのに!


「坊や、スコーンいらんかね?」

「しゃべってるー!」


 アートじゃ無いよ! むっちゃ生き物だよ!


「要らねー。それ食べたら漏れなくスライムになる奴だろ」

「味は良いよ」

「安全性が産業廃棄物じゃねーか」


 喋りながら、水沫君は地面の石畳を剥がして、小さなコンパスを土に埋めてからそれをまた戻した。

 て言うか知り合いじゃん。


「分かってると思うけど婆さん、コレ今日の夜まで動かすなよ?」

「あいよ、頑張んな」


 水沫君が宙に浮けば、必然的に私も空に上がる。

 手を振ってくれているお婆さんは、見た目はホラーだったけど、悪いお婆さんでは無かったようだ。


「次は南エリア……公園と工場区域か」

「あ、水沫君ななめしたの ひろば」

「おん? あぁ〜、見つけちゃったかぁ」

「みゃぅ……」


 私達の斜め下。可愛い天使の像の噴水の広場で、何やら胸熱展開のバトルが繰り広げられてる雰囲気があった。




 ***


(三人称)



「ヒッヒッヒ! よぉ三下ァ、テメェも試験に参加してたのには驚きだぜ」

「こっちの台詞だよ。どう見てもお前路地裏で殺しとか薬とかやってる風貌じゃんかよ」


 細身だが無駄のない筋肉質な体の、スキンヘッドの男と、ごく普通のシャツとズボンの青年。


 この二人、実はつい先日いかにも屋敷を抜け出したお転婆令嬢を裏路地に連れ込み、人身売買しようとしたロクデナシと、それを助けた自称モブである。


 スキンヘッドは対峙する彼を三下呼ばわりしているが、実際は(モブ)にボッコボコに殴られた側だ。


「次は生かして帰さねーぜ、ハゲのオッサン。お嬢様が悪党を全員蹴散らして来いっつってな。良い靴くれたんだよ」


 モブは、昨日助けた令嬢が錬金術師で、そのテスターとして参加していたらしい。

 一方、スキンヘッドは『ハゲ』発言に青筋を立てていた。


「テメェもいつかはこんな頭だぜ? 見せてやるよ。俺の相棒が錬成した特殊除毛剤の凄さをなッ」


 こっちもテスターだった。

 後ろの方で、ヒョロヒョロの少年が隠れてエールを送っている。


 が、次の瞬間カチリという音が聞こえても可笑しくないレベルで、空気が変わった。


 ビシャリッと。特殊除毛剤が赤煉瓦の地面に広がる。

 薬液が蒸気を上げれば、モブは咄嗟にその場から跳躍し、スキンヘッドの頭を踵落としで割ろうとする。しかし、スキンヘッドはその動きを読んでいた。

 既にその場には、一番目立っていた丸い頭部は無く、投げ上げたのであろう別の何かが入った缶の容器が、モブの踵とぶつかった。

 周囲が煙で真っ白になる。

 コレが、毒ガスであったなら致命的だった。が、流石にチーム戦の舞台で集団殺戮兵器を作って渡すアホなど、頭のネジが飛んでいる一人(試験官)くらいしかいない。


 だからだろう。モブの動きにも感覚にも、一瞬の焦りや油断という物はこの時露わにならなかった。


 そのまま肉弾戦となった彼等の互いの動きは、驚くほど噛み合う。

 避け、打ち、耐え、踏み込む。


 ━━あの日の裏路地で交わした拳の続きだぜ!


「はは……何だお前、結構強ェじゃん! でも、次のコイツはどうかなァ!?」

「必ず受け切ってやんよォ!」


 誰がどう見ても試験の事など綺麗さっぱり忘れ、バトル漫画風に白熱した戦いを繰り広げるスキンヘッドとモブ。

 そんな二人の間に音速で降り立ち、また音速で去っていく影があった。



「ヘイYou! Meとけーやくして魔法ショージョになってYO!」



 胸熱バトル漫画終了。

 死刑宣告である。

 聞こえた時には、もう時すでに遅し……。


 彼等は、フリッフリでロリッロリな魔法少女コスチュームになっていた……。


「「◇●△〒☆*∞◎!?」」


 言葉にならない絶叫に、たった今その悲劇をぶち撒けた元凶を抱える水沫は心が痛んだ。


「恨むなよ、第一の犠牲者……」

「水沫君なにいってんの? 雑魚はキョーシャに ふみにじられる ものよ?」

「5歳児がシビア過ぎるぅ……(メソォ」

「にゃ〜」





 これは余談だが、殴り合っていたモブとスキンヘッドの裏路地での記憶は、そこそこ捏造されて美化されていた。

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