68-2 試験開始です
「場所についてノーヒント!?」
「エキストラって何!?」
「黒歴史製造幼女どうしたよ!?」
『え、説明いる?』
「「「何でいらないと思う!?」」」
フォークを咥えたまま、少し思考した彼は「ま、いっか」と小さく呟いた。
『エキストラは諸君等が不正をしないための監視役だ。不正をしたら半殺しにされて向こう50年は試験を受けられないから気を付けたまえ』
つまり、試験中に何もやましい事をしなければ問題は無━━
『そうそう、遊び甲斐の有りそうなのには手を出しても良いと許可している。組合のお偉い方や学園の教授達だ。心当たりのある元問題児達、絡まれないと良いね』
━━くは無かった。
この場に居る彼等は、全員一回は必ず何かやらかしている。
会場全体がゾワリと震えた事は言うまでも無いだろう。
『それとナナキュベータ君はもう準備万端だ。スモーブローをもりもり食べて既に持ち場についている』
タプっと、スマホで彼は何かを押した。
すると受験者達の建物の天井が、鈍い音を立ててゆっくりと開いていく。
最初に気付いたのは誰であろうか?
誰でも良い。
黒い影が、彼等を見下ろしていた。
それが紛れもない事実である。
少し大きな影が、小さな影を抱えていた。
黒い羽が一枚、ヒラリと誰かの頬をかすめた。
黒い翼を広げたソレが━━天狗であると、気付かない者は此処に居ない。
自分達を見下ろすライラックの瞳と紅の瞳は双方、据わっている。
空気は明らかに絶対的強者の物。
━━あれ? 4日前まで彼奴等あんなに雰囲気あったっけ?
二人が誰かなど愚問。水沫と七夜月である。
何方も和装だ。水沫は初日に来ていた書生服に腰に内ポケット等の収納機能が付いた布を巻いており、七夜月も椿の柄が可愛らしい袴に水沫と同じ布を腰に巻いている。七夜月は可愛らしく、淡いピンクの花飾りで髪を編み上げているが、今あまり癒し効果は無い。
だからこそ、彼等の雰囲気が明らかに冷たく、そして真剣で、殺気すら感じられるのは、『格好が4日前と違うから』というだけでは説明がつかない。
『知っている者やある程度推測出来ていた者も居たんじゃないかな? ナナキュベータ君は大伴水沫のテスターも兼ねている。その為諸君、ナナキュベータと都市内を周る大伴水沫は殺しても構わない』
何人かが息を呑んだ。
危険な場所へ、錬成に要る素材集めという作業も、錬金術師の仕事の内に入る。
よって全くという訳では無いが、戦闘織とは言い難い普通の錬金術師達には、誰かの殺害の許可が出るなど、刺激が強過ぎた。
「そんな……殺すって」
『ハハハ! 意気込みの話さ。それくらいじゃなきゃ死ぬからね〜』
軽く笑いながらも、アルジエルは淡々と説明を続けた。
『彼の合格条件は、君たちに殺されずナナキュベータ君を運ぶ事。また、彼の服につけている黒い星のブローチを奪われない事だ』
その単語に反応する者は多く、当然ながら奪うと自分達に利益があるのかという質問が出た。
『うん、ナナキュベータ君の投入が終了になるよ』
「重要事項じゃねーか!!」
「何で最初っから言おうとしないんだよ!」
非難轟々である。ちなみに此処まで彼等が魔法少女化回避に必死なのは、一時の恥では無いからだ。
この試験、全国中継されてしまうのである。地獄ぅ〜。
『だって魔法少女ステッキ(仮)の性能チェックを私がしたいんだもん』
「「「ド畜生ッ!!」」」
あまりにも息の合う彼等を見て、撮影スタッフ達は『全員仲良しか?』と異様な表情を浮かべていた。
『そうだ。ナナキュベータ君への故意の攻撃は禁止だよ』
その場合は即リタイアだ、今生から……と、さらりとアルジエルは告げた。
即リタイアだと、プシュッと脳が破裂する仕組みになっているらしい。
『原理は企業ヒ・ミ・ツ♡』と付け足せば、錬金術師界の闇の深さに9割が青褪めた。
この言葉、マジで冗談では無い事を指しているのだ。
錬金術師には、己の研究成果のある程度の開示義務が有る。が、本当に秘匿した方が良いもんは絶対に言わない。言えない。洒落にならない。
そんな時の素敵な合言葉である。
『偶然攻撃が当たってしまった場合は構わないが、その場合故意だろうとそうで無かろうと、反撃しまくって良いと言ってある』
ピクリと、それに反応したのはシモンと隣に居た少年だ。
「まぁ、狙いが大伴水沫だけなら、防御程度の手助けは良いが反撃はするなと言ってあるので、そこまでビクビクする必要は無いよ。
━━━━流石の私も、ロートハイン事件の再現は見たく無いからね」
ロートハイン事件とは、数百年前に起きた1羽の天狗による真祖一族の大虐殺である。
人間ベースのつい最近半不死者になったような受験者達や都市の外にる者達は知らない話だが、そうで無い受験者や、別の場所からスクリーンを見ていたエキストラ役の関係者達は、顔を強張らせた。
数年前。あの事件以来初めてこの都市へ来た天狗━━水沫が温厚だった為麻痺していたが、天狗とは本来そういうモノなのだ。
『それでは、始めようか』
「にゃーお」
唐突な猫の鳴き声。
今のは、開始の合図だったのか……?
余りにも、此処まで冗談にしては悪意強めだったアルジエルが用意したには、可愛過ぎる悪戯である。
受験者達はお互い顔を見合わせる。
『━━15分後だ』
ニンマリと口元に弧を描いて、アルジエルは言った。猫の声が計算内なのか外なのか、判断がつかない。
『ナナキュベータ君が動き出すのは15分後。それ以降は、目につき次第ステッキが振るわれるぞ!』
受験者達は一目散に散った。
正に、蜘蛛の子を散らすように。




