68-1 試験開始です
(三人称)
女は思索した。
何故自分の娘が死んだのか。
女は研鑽した。
娘を生き返らせる為に。
妄執を重ね実験を重ね錯誤を重ね検証を重ね理論を重ね焦燥を重ね━━禁忌を重ねて。
そして女は失敗した。
何度も何度も何度も。
常人の精神では、何もかもを使い果たして挫折し、自らを身限り、全てに絶望するような回数を。
━━二次試験当日。
開始時間丁度。
アルジエル・ネレイドは受験者達が集まる建物の中には、
━━━━居なかった。居なかったったら居なかった。
この時点で何人かの血管がブチっと切れた。
並べられた椅子に、お行儀良く座っているように見えるが、膝の上に置いている拳は、半数以上ぷるぷる震えている。
そして数分後。スクリーンが静かに音を立てて動き、映像が映し出された訳だが。……彼はどう見たってパジャマのままであった。
洗顔やヘアケアなど、見苦しく無い程度に身なりは整っているが、青と白の縞々パジャマ姿であった。
またしても血管の切れる音が多発した。
スクリーンに映し出す為の撮影用の水晶と、彼の間にはテーブルが有る。
ベーコンエッグにグリルドトマトやマッシュルーム、マーマレードのトーストが置かれており、彼自身は新聞に目を通しながら紅茶を飲んでいた。
とても素敵なイングリッシュブレックファーストの光景である。
目の下にクマまで作っている受験者達の殺意が更に増す。
『やぁ、素晴らしい朝だね愚民もどきの塵芥以下達』
しかも前より毒のある呼び方ときた。
我慢の限界点突破。
その瞬間、前列にいた受験者達が椅子を蹴る勢いで立ち上がった。
「やる気あんのかテメェッ!!」
「清々しい休日のモーニング楽しみやがって」
『何か言ったかな? すまないね、今かけていた『美しく青きドナウ』の音量が大きかった』
「音楽までかけてんのかよッ」
「社長出勤すらしてない癖に良い御身分だな!」
「つかソレ環境音のオフ設定まで付いてんの!?」
新聞を折ってから、機嫌良くレコードの音量を下げている様子に、受験生が半分くらい鬼の形相になっていた。
『それで、えーと……今日は何の集まりだったかな?』
「「「ボケてんじゃねーぞクズが!!」」」
アルジエルは態とらしく肩をすくめ、紅茶を口に含む。
『はっはっは! 冗談さ⭐︎ 何分、優秀すぎる私は何処からも引っ張りダコの身なんだ。有象無象の猿集会の一つ二つ、記憶から飛んじゃっても仕方ないだろう?』
話す毎にヘイトを稼ぐ天才は、ベーコンエッグを一口頬張る。
絶対に朝食は中断しないらしい。
『ほれひゃあ……それじゃあ、今日の試験について説明しようか』
既に話を聞く体勢より臨戦体勢の者ばかりの場に、マイペースを通り越した声。
果たして受験生達の頭に、試験の内容はすんなり入るのだろうか??
【第〇〇回 錬金術師昇級認定試験】
「隠れんぼ」
罠やお邪魔虫やエキストラを、テスターと協力して掻い潜り、鍵を集めながらメルトリウム内の何処かにいるアルジエル・ネレイドを見つけよ。
(合格条件)
①夜20時までに、アルジエル・ネレイドを見つけよ。
②アルジエル・ネレイドを見つけるまでに三つの鍵を手に入れよ。
(失格条件)
①時間内にアルジエル・ネレイドを見つけられなかった者。
②黄色いスカーフを着けたエキストラに捕まった者。
(補足)
戦闘力の無い民間人には本日外出を控えてもらい、居住区全体を守る結界装置を各自治体に行き渡らせている為、存分に暴れて良し。
【以上】
『はいスタート』
「「「ちょっと待てェ!!」」」
受験者達には目もくれず、フォークでトマトを突きながらアルジエルが宣言した瞬間、誰もが声を上げた。




