67-2 誰に仕えたいか、です
ごめんなさい。一回消しました。
一拍空けて、真剣さがもっともっと伝わるように見据えた。
「やめたいっていうの……ホンシンじゃなかったよね?」
キュッと、硬く結ばれる唇。
「……なんかいって」
沈黙気まずい。
まぁ、水沫君の方が気まずそうだけど……。
無意識だろうけど、視線が少しキョロキョロとしている。
喉の奥で言葉がつっかえているみたい。小さく開く口に、上下にひくつく喉。
その口から息だけが漏れる微かな音からは、彼の葛藤が伝わって来る。
椅子のキャスターが小さく軋んだのは、立ち上がって逃げ出そうとでも思ったのかも。
踏みとどまってくれて良かった。流石にそこまで根性無しでは無かったみたい。
「…………若君の側近になるよう、命令されたんです」
「あぁー……兄ちゃんのかぁ」
漸く聞けた台詞に、そう言う話だったのかと納得してしまう。
暗い話になるけれど、ジィジはもう本人も実年齢分かんないくらい━━たぶん縄文か弥生くらいから生きてる。
天狗の平均寿命は本来約800歳だと言う。ジィジは特殊個体だから長生き出来てるみたいだけど……そろそろ、なのかもね。
今の様子だと、老衰狙えば多分もう100年くらい生きられるんだろう。
けれど━━。
私が知る世界線に、鞍馬彩雲なんてキャラクターは存在しないのだ。
正直なところ、ジィジが原作開始時期までに死ぬビジョンが、私には全く想像出来ない。したくもない。
覚悟はしているけれど、此処がジィジというイレギュラーが偶然にも生きる、特殊な世界線だと願わずにはいられない。
ジィジはまぁ、漫画の原作の事なんて知ってる訳が無いから、水沫君への移動命令は善意100パーだったんだろうけどね。
繰り返しになるが、普通に保っても後100年程度しかきっと生きられないから。
200年生きて見た目が大人になってるかって、やっぱり大事なのだ。舐められない為に。
100年じゃ、私達はちゃんと大人に見える姿になれているか分からない。
だから、能力は高くても軽んじられる。
現状そうじゃ無いのは、ジィジが「俺の意見に文句が?」と黙らせているからだけど。兄ちゃんに同じ事は出来ないだろう。
同じく、能力値は高くても大人の姿になっているか怪しいから。
そして、兄ちゃんにそのタイミングで仕えるというのは遅すぎる。周囲との軋轢を生んで、水沫君は家に居られるか分からなくなる。
下手をすれば、規格外の才能を潰されてしまう。だから、自分が生きている内に兄ちゃんに鞍替えさせようとしてるんだろう。
老い先短い自分が独占して、その後の水沫君の人生を壊してしまわないように。
「良い話だって理解できます。でも……こんな事姫様には言いたく無いんですけど、俺は鞍馬一族に仕えたいんじゃ無い。鞍馬彩雲に仕えたいんです」
とんでもない無茶振りを強いられても苦では無い。
そう思えるのが、ジィジだけだったって事なんだね。
うんうん、よく分かる。でも……、
「━━水沫君? ソレだけじゃないよね?」
水沫君が固唾を飲んだのを、私は見逃さなかった。
「水沫君さ、ほんとうは しってたんじゃないの? 私がユーカイされること。……『されるかも』って方がセイカクかな?」
「ちが……」
何か言いかけて、口を閉ざす。
んもう、煮え切らないなぁ。
「水沫君、つくってほしいリクエストある」
「……え、今!?」
「はやくいわなきゃ、きげんもうないよ」
だから、私に必要な物を作って。
それでパパパっと試験済ませてさ、一緒に初雷に帰ろう。
そんなに、現実を見たくないと言うのなら、私が無事な内に、有耶無耶にして帰っちゃおう。
敢えて言葉にはしないけどね……。君の精神衛生上、それが一番良いと思うんだ。
「はい、キビキビてをうごかす!」
「これぞ本気のパワハラ!」
そうして過ぎる時間は存外賑やかなものになった。
徹夜で私に必要な物を作って、思わずそのまま雑魚寝してしまった翌朝、
地底都市の朝は、元から鳥の声なんてしない。
でも、真っ暗な何も見えない世界が、淡い光で水色の━━青い海の世界の色に染まる。
だからって、鉄っぽい━━湿った臭いはしない筈なのだ。
━━━━小さな部屋で、空の本棚が並ぶ部屋。その小さなベッドで、白い枕元の色が一部だけ濃くなっている。
ピクリともしないシュシュさんの体は、冷たくなっていた。
開きっぱなしの彼女の瞼を閉じてあげた水沫君は当然ながら……徹夜してた時の、キラキラした目じゃ無かった。
ネタバレですが、七は人望面で兄を侮ってます。




