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66-2 殺したくないです

 今度こそ水沫君が抱え上げて、私達は帰路に着く。

 シュシュさんには例のヴェールと同じ認識阻害の機能をつけた外套を被せて、台車に乗せさせてもらった。これで死体を運ぶヤバい奴だとは思われない。(※予定)

 水沫君の収納ピアス……生き物でさえ無ければ本当に何でも仕舞えるし、出ても来るね。凄い便利。


 そんなちょっと羨ましい気持ちを抑えられない帰り道、水沫君は少しだけシュシュさんの話を始めた。


「此奴、出身は日本なんですけど……奴隷狩りに遭ってこっちに売り飛ばされて来たらしいんすよ」


 別に私から聞いた訳じゃ無い。


「ガチでヤバいとこで働かされて、公的機関に助けられたんですけど、もう廃人状態で……俺が会ったのはその時です。使い古しのボロ雑巾より酷ェ有様なの見せられて、初めは何させられるのかと思いました」

「なんだったの?」

「治療薬作れって」


 それ錬金術師では無く、お医者さんの領分じゃ無いだろうか?


「普通の薬じゃ更に精神崩壊しかねない違法な妖蟲(ようちゅう)飲み込まされてたんで」

「うわ、きっつ……」

「姫様虫ダメだしたっけ? 夏にカブトムシとクワガタ両手に構えて、頭にカマキリまで乗っけて、簪姫を追いかけ回してましたよね?」


 ああ、そういえばやったわそんな事。

 虫が苦手で喚きながら全力ダッシュする簪に、Sっ気が擽られちゃったヤツ。

 麦穂に滅茶苦茶怒られて簪に御免なさいしたわ。


「ていうか、カブトムシであそぶのとショクチュウは全然はなしがチガうからね」

「それもそうか」


 調子が少し戻って来たのか、水沫君の表情に笑みが浮かび始める。

 それはそれとして、今の段階で、まぁ察しは付いた。

 シュシュさんが言ってた「助けてくれたのに」って言うのは、その妖蟲を殺す特殊な虫下しを水沫君が作って、お人好しだから、その後もきっと過保護にケアしたんだろう。じゃなきゃ、昨日見たあの明るさの説明が難しい。


 あぁ、もう……面倒臭いなぁ。


「水沫君。シュシュさんにジョウが わくよう しむけてる でしょ?」


 誰が? なんて、私以外居ない。

 軽蔑するとか、許せないとか、色々言っていたのが嘘だとは思わない。


 でもどこかで彼は、彼女に対して非情になりきれない。


 だから私に言ってほしいんだろう『殺さない』って。決定的な一言を。


 私は生き物を殺す事に躊躇が無い。

 他者の命を軽視して、すぐ殺しちゃう傾向が人間より強い妖だから、なんて理由じゃ片付けられない。

 そう育つよう整った環境だったし。


 一度死んだ(殺された)記憶があるから、


 ━━また(・・)殺されたくないって傾向が強く出る。

 だから、自分に危害を加えようとした相手なんか、どうなったって良いと一際強く思う。


 けどさぁ水沫君……君、そんな難しく考えなくて良いじゃん。


「水沫君が殺したくないなら、もうそれでいいじゃん」


 家……いや、ジィジへの()()()()()忠誠心。

 また懲りずに私を『ある人』とやらに渡そうとする事への危惧。

 法的にそういう機関に最後は引き渡すべきだろうという常識。

 まぁ、そもそも六華将の姫の誘拐関与及び殺害未遂……普通に日本の常世なら死刑なんだよね。

 そんな結構大事な事含めてゴチャゴチャ考えてるとこ悪いけど。


「まよってるじてんで、もう水沫君はケツロンだしてるよね」


 くしゃりと、水沫君の顔が歪む。

 私は態と、その歪んだ先の表情を見ないであげた。

 この年頃の男の子って、カッコ付けだから。


「此奴の名前、俺が付けたんです」

「ふーん」

「さっき、姫様が踏みつけてるのを見た時……モヤモヤしました」

「ふーん」

「俺、この後ちゃんと此奴に尋問出来るかも怪しいです」

「ふむふむ」

「……今回の事が、初雷領の連中の耳に入ったら、絶対に殺す事になるのに…………俺は、ソレをしたくない」


 ……ふぅ、やっと言ったか。


「よくいえました。花丸あげちゃう」


 私は振り返って、ニィっと歯を見せて笑った。

前世ネタは、時が来るまでちょっとずつ出してくスタンスです。


次の投稿は明後日です。

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