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66-1 殺したくないです

 大きく息を吐く音が聞こえた。

 水沫君が、頭に血が昇ってるのをどうにか落ち着けようとしてる。


「……それで、姫様攫い直しに来たってか。姫様攫ってどうする気だった?」

「私は仲介人だから。初雷から運び込まれたその子を受け取って、ある人に渡したらそれでお終いですよ」

「だれにわたす気だったの?」

「……顧客の情報を漏らす訳無いでしょう」

「死んだらきょうせーてきにミセジマイなのに?」


 シュシュさんの口元に、微かな笑みが浮かんだ。


「死ぬ訳無いでしょう? こんな私にお誂え向きの場所に誘導しておいて」


 地面からキラキラと。

 沢山の粒子が彼女の元に集まりだす。


「……水沫君、せつめい」

「すんません。そういや火車って死者の魂奪う以外に、墓地や葬儀場を荒らすので有名な妖でした」

「で?」

「『荒らす』っていうのがこの場合、墓地を色んな意味で好き勝手出来るって事なんですけど……」


 目を逸らそうとするので耳を引っ張ってやった。


「いでっ……、その! この墓地って昔の力の強い錬金術師や鍛治師がわんさか……まぁ、埋められたとこでして……多分、土に魔力とか妖力とかそういう力が集まってるんじゃないかなぁ……なんて♡」


 つまり……今それを吸ってパワーアップしていると??


「かえったらオシオキ」

「すんません!!」

「……は、じょーだん」

「この局面で遊べる姫様リスペクトすべき!?」


 水沫君のリアクションも、結構余裕ある人のソレだよね。


「おろして」

「言っときますけど、羽根使うのは無しですよ?」


 ……マジで何言ってるんだろうね。


「つかわなきゃいけないほど、あのこ強そ?」


 ホコリなんかを宙で払う仕草。

 同時に起きる風に殺傷力があるとは、きっと誰も思わない。

 風は彼女の両腕のみでは無く、今度は両脚も切断した。


「いやあああああああああ!!」


 五月蝿い悲鳴に、呆れて何も言えない。

 パワーアップしようと、さっき両腕を斬り飛ばされた時点で力量差を測れない馬鹿は、所詮雑魚of雑魚じゃん。察してほしい。


「姫様、風で直ぐ四肢を切り落とすのは、もう癖なんですか?」

「……? クビとばしたら、すぐ死んじゃうでしょ?」


 達磨にされて横たわるしか無いシュシュさんに近付くと、彼女は完全に気を失っていた。

 さっきパワーアップするために吸収した力は全部治癒に回ってるみたい。

 うん、良い感じに消費出来るみたいで良かった。

 下手に力有り余らせてたら逃亡のリスク上がっちゃうもんね。


 そうして、水沫君が彼女を運ぶため屈んだで上半身を持ち上げた瞬間だった。


「みなわ……さん」

「「!」」


 顔の方に視線を向ければ、薄く目が開かれていた。


 そして、火で出来た長い尾が、水沫君に伸ばされる。

 攻撃されるんだと思った。

 もう至近距離過ぎて手加減とか出来ないけれど、水沫君が致命傷を負うよりはマシだと思って彼女にトドメを刺そうとした所を、無言で手を出されて止められる。


 ━━正気!?


 目を見開いた私だけれど、ソレは杞憂で終わった。

 彼女の尾は、水沫君の頬に触れる寸前で止まり、けれど本当に触れて撫でているように、小さく動いただけだったから。


「ごめ、なさい……たすけてもらったのに…………御免なさい」


 火が消えて、寝息が聞こえてきた。


「……謝ったって、許せねぇわ。馬鹿タレが」


 そう言う割に、水沫君の声に怒りの色は滲んで無い。

 なんて言うか……凄く残念で、悲しい感じがする。


「帰りましょう、姫様。此奴俺らほどまともに妖力使えないんで、ちゃんと処置しないと後遺症が残ります」

「……うん」

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