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65-2 火の猫です

「つよいじゃん」


 流石に火と煙が出れば誰も彼もが気がつく。

 私達には気付いていない見たいだけれど、道端から燃え広がろうとしてる炎とシュシュさんに、誰もが消化活動をしはじ得たり、逃げたり、攻撃を始めたりしてる。

 いや、最後……挑まないで逃げなよ。


 シュシュさんが私達を見上げる。それを合図に、水沫君がまた飛んだ。


「移動します! 被害が広がり過ぎる!」

「よきにはからえー!」

「余裕有り余ってるな姫様!」


 うん、抱えてもらってるからね。

 誰かに抱えられて飛ぶのって久々、興奮しちゃうね!


「ミャアアアアアァァァアアア!!」


 高い猫の鳴き声が空を割るように響いたかと思えば、すぐ背後にソレは現れる。

 ていうか、火車もやっぱり飛ぶのか。


「けっかい、はろうか?」


 飛んでる間にさっきのエグい火炎放射打って来られたら一発アウトだし。


「いや、さっきは多分変身の衝動でヘマやらかしただけッ、アイツあの形状でも意識は人型の時と同じように有ります! 都市全体にヘイトかます度胸は絶対に無いんで、飛んでる間は大火事になるような事は絶対しません!」


 なるほど? 『狙いミスったら』って、理性が働いていると……。


「じゃあ私が、きつねのときみたいに、アタマ打ちぬこうか?」


 外しても地上に届かないし、そもそも絶対に外さない自信があるよ! と主張したが、却下された。

 火車は死んだら自分の体の火で燃え尽きるらしいけれど、燃え尽きる前にどっかの家にでも落ちたら其処が燃えちゃうからって。


「周囲の被害が出ないとこまで急ぐんで! 舌噛まないように気をつけて下さいね!」

「よっしゃ期待してる!」

「『期待してる』!?」


 舌を噛むほど速いんでしょ? 身長制限で引っかかるから、今世ではまだ絶叫マシーン乗れてないんだよ。

 何なら自分で動く方が速い事もあるしね、しょんぼり。


 そうして私達が辿り着いたのは、墓地だった。


「なんで?」


 幼女を連れてくる場所じゃ無いよ。ガッカリだよ。

 私じゃ無かったら暫く口聞かないよ、こんな夜中にトイレ行けなくなるような場所に連れてくる男。


旧聖骸区(きゅうせいがいく)はクリスマス終わった後に聖職者が掃除に来るくらいで、普段は誰も来ないから好都合なんです……って何ですかその顔?」

「べつに」


 此処、旧聖骸区っていうのか。

 石でできた十字架や長方形の墓石を眺めていると、後ろで静かに風が揺れた。

 次いで感じる熱気に、水沫君が振り、私もそっちを見易くなった。


 四つ足の、火車の姿のままのシュシュさんが、静かに私達を見つめている。


 すぐに攻撃してくると思ったけど……移動してる最中に頭が冷えたんだろうか。

 不気味なくらい静かだ。


「水沫さん」


 脳に直接語りかけてくるような話し方で、思わず水沫君の服を握っていた手に、更に力が入った。


「水沫さんは、此方側では無いんですか?」

「此方側ってのは……?」


 半ば睨み合うように見つめ合う水沫君達。

 先にソレを止めたのは、シュシュさんの方だ。


「可笑しいと思った。……そうだよね、水沫さんは、子どもを殺す事は出来ても売り飛ばしたりは出来ないよね」


『売り飛ばす』。

 その単語を聞いて、私の脳裏を此処へ来る事になった背景が過った。


 誘拐された私の入ったトランクと、水沫君の荷物が入ったトランクが入れ替わったから、私は此処に今居る訳だが……。

 入れ替わらなかったら、どこに行っていた?


「シュシュさんは、ユーカイされて うられちゃった子を たすける おしごとなの?」


 違うとは思うけれど、確定させるにはまだ証拠が足りないから、一縷の望みを賭けて聞いてみる。


「ハッ、まさか……」


 火車の体が、人の形に戻った。

 シスター服に身を包んだ彼女の目は、物憂げに伏せられている。


「攫う側だよ」


 やっぱりか……。現実は、優しくないね。

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