65-1 火の猫です
「助け……て、水沫……さ」
「このご におよんで助けて もらえると おもえるシコウなに??」
思わず足に力がこもり、骨の軋む音がした。
「あぁ、こっちに認識阻害の機能付いてたのか」
蹴った時、頭から落ちて道に置き去りにされたヴェールを手に、水沫君が路地を覗き込んだ。
「何やってんだよシュシュ?」
表情に呆れの色は有っても、心配や助けようという気配は一切無い。
だよね。君も殺され掛けたんだし。有ったらドMかと疑ってた。
「ど、うし……て?」
「お前が姫様を狙ったから」
あれ? 自分の命を狙われたからじゃ無いんだ?
「俺の飼い主の、一番可愛がってる姫様なんだわ。狙うんなら軽蔑する」
と言いながらも、水沫君は私の両脇の下に手を差し込んで彼女の上から退かす。
……何気に、私に殺されないようにしてあげたね? 『軽蔑』って言ってるけど甘くない?
━━ベチャッ
とか思ってたら、何かの薬品を彼女にかけた。
「酸?」
「此処でンなモンかける奴居たら俺でも血の色疑います」
まぁ、そっか。溶けてないし。
「身体を固めて動けなくしました。さっきの針がまた出てきたら危ないんで」
「それ尋問してもクチあかないから、しゃべれなくない?」
「……」
無言のままベチャっと、顔にだけまた違う薬品をかける水沫君。
喋れるようにする薬かな。
「んでシュシュ、お前昨日、男臭ぇ職場に居るとか言ってたよな? あそこドワーフのオッサンと孤児の餓鬼数人以外は女ばっかだろ? 嘘ついて俺等を襲って、何してんだよ?」
彼女の━━シュシュさんの、涙で膜の張られた目が、一瞬だけ開かれる。
「う、そ……。はなし、ち……がぅ」
その一言で、共犯者が居ると分からない程、私達は平和ボケしていない。
一瞬だけ目を合わせてから「話って誰との?」と、水沫君が切り出した。
「なん……で」
「シュシュ?」
話が聞こえていないんだろうか?
彼女の気配は、人間でも、元人間でも無い。かと言ってこの街で沢山見かけたドワーフとも違う。
私達妖に近い。このくらいで死んだり、壊れたりはしないと思うんだけど……?
「なんで? なんで━━━━何で、何で、何でナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ━━━━!!」
耳をつんざくような叫びと共に、彼女の体が燃え上がった。あれ? デジャヴ……これって……狐の時と同じ!?
水沫君が私を抱え上げて俊敏に路地から退避した。
「シュシュさん、きつね?」
「いや、こういう爆発は獣系に多いんです。狐じゃ有りませんが、アイツは━━」
ぴんとたった三角の耳に、四足歩行。長い尻尾は、二股に分かれているけれど、ソレは馴染み深い獣とほぼ同じ姿形をとっていた。
でもその獣は毛では無く、赤々とした炎で覆われていた。
「━━火車の、末裔です」
冷や汗が流れたのは言うまでも無い。
「大妖じゃん」
「いや、火車のオリジナルならヤバいですけど、あくまでも末裔っすから。そこまで━━」
一歩、シュシュさんが踏み出す。
身体の炎が揺らぎ、離れ、『炎』という文字が宙に三つ浮かぶや、私の視界は一瞬で変わった。
私を抱えていた水沫君が、近くの建物の上に避難したからだ。
私達のいた場所に火が放たれたのは、その直後。タイミングがガチで紙一重だった。




