64-2 彼女の髪は林檎の色でした
捨てられた人間の癖に、領主に目を掛けられるなんてッ、と。嫉妬に狂った輩が毎日嫌がらせをしてきていたそうだ。
嫌がらせというには、普通に死んじゃうレベルも有ったらしいけど。
「それに、あのお貴族様━━当時の此処の領主をブチ殺してくれたあの大天狗にも、悪感情ってモンは無いな」
「そうなの?」
気に掛けてもらっていたのでは?
「俺はなぁ、アレを『気に掛けて貰ってた』とは思わねぇ。偶々、鋼を鍛えてるところを見られて、寧ろ運が悪かったって思ったくらいだ」
孤児院に居るうちから、将来の就職先は探す物で、人間だと思われていたにも関わらず、山賊神父は鍛治師の弟子入りが決まっていた。
そこで修行……というにはまだ軽い滅茶苦茶下積み段階のところを偶然にも視察に来た件の領主に見られた。
「アレはこっちが作った物を献上したとこで使わなかったのさ。腕の良い職人を劣悪な環境で競わせるように仕向けて、貴族仲間に自慢する為の、物置に仕舞い込む物を作らせてただけだ。俺も妹も、アイツが大嫌いだった」
結果的に、何でかは分からないが、その領主がバァバを誘拐してきて、ジィジがぶち殺したのは、渡りに船だったと。
頭に大きな手が乗り、わしゃわしゃと撫でられる。
「お前さんの身内には恩がある。だから危ねぇ無用の長物は打ってやれねぇのさ」
私と水沫君は、そのまま教会を出る事になった。
「セカイがいがいとせまくてビックリした」
「自分の無能さにまたナメコ栽培しそう」
水沫君、自分で私に補助道具を作るって考えが抜けてた事をまた気に病み始めてる。
さっき、山賊神父にアドバイス貰ってたよね? その時は普通だったのに……。
良い加減うじうじ止めてって、口を開き掛けた時だった。後ろから小さな足音が聞こえた。
「お二人とも〜」
掛けて来るのは、『リラ』と山賊神父が呼んでいたシスターさんだ。
「神父様が、お土産に先程のお菓子をと!」
水色のリボンで可愛くラッピングされたソレ。
「そんなに余ってたのか……? 孤児院のガキ達にやりゃ良いのに」
「実は今いる子達、3割くらい卵アレルギーで……」
「マジか……そりゃ確かに孤児院に下手に持ち込めねェな」
ならばと、受け取ろうとする水沫君を一回見てから、私は静かにシスターさんを見据えた。
ずっと気になってたんだよね。
「なまえ、シュシュさんじゃないの?」
水沫君はまだ、完全にラングドシャの入った袋を受け取っていた訳では無い。
シスターさんの両手に収まっていたソレが、微かに崩れた悲鳴を上げる。
水沫君はマジマジとシスターさんを見てから、私に顔を向ける。
「このシスターさん、水沫君にだきついた おねーさんでしょ?」
見覚えが有ったシスターさんの動きが視えた。
正確には、私と水沫君めがけて投げられる細い針の先が視えた。
━━━━ダンッ!!
至近距離すぎたから、舗装された道が壊れる勢いで跳んでしまった。
でも仕方ない。水沫君を引っ張って道の端っこに投げる。
ソレと同時に、シスターさんの側頭部に蹴りを入れて吹っ飛ばした。
でもまだ、ゆっくりしてられない。
彼奴は凶器を持ったままだから。
両腕を風の刃で斬り落とす。
本当は神通力用の霊力温存しときたかったんだけどね。シモンさんに、ウッカリ無駄撃ちしちゃったし……。
けれども現在地は、樽と黒猫の置物があった店━━大通りにもう近い場所だ。
この道自体に人通りが少なくても、覗き込まれて野次馬が集まったらアウト。
決着は早くつけちゃいたい。
今まで歩いていた教会からの一本道もそこまで広く無いけれど、たった今彼女を蹴り入れた階段状になっている路地は、もっと狭い。それに暗い。
壊れた人形みたいに、両腕を足元や顔の横に散らして落としている彼女は、階段に座っているようにも、倒れているようにも見える。傾斜がそこまで急じゃ無いから、下に落ちて来ないのが少し残念だ。
私、ちょっとだけど登らなきゃいけないじゃん。
暗くて狭いその階段を何段か登り、私は再びシスターさんの視界に映り込む。
怯え切った目にガッカリした。
水沫君が可愛がってる後輩なら、誰かを殺める場合自分も殺められるって道理を理解してると思ってたのに。……何この甘ちゃん。
うっかり骨とか肺とか心臓を踏み砕かないように注意して、私は彼女の胸部に足を置いた。
「どういうつもりだったのか……。ちゃんとはかないと━━ラクには殺してあげないからね?」
本物のリラさんは、別室で子ども達をお昼寝させた時、一緒に寝ちゃってました。
外に出たはずのリラさんが子供達と寝てる姿を見て、この後ドワーフ神父は首を傾げる予定です。




