64-1 彼女の髪は林檎の色でした
「お前ら、色々大丈夫か?」
「いや……大丈夫じゃ無いかも……」
「水沫君、どうしちゃったんだろ私達? いまアイキューさがってた」
自分達の愚かさにプルプル震える私達。
そりゃ博士も首を傾げてた訳だよ〜! どうして補助道具くらい作れる水沫君が居るのに、ドワーフの所に来ちゃったんだ〜。
ファンタジー脳が過剰に刺激されたのかなぁ?
「まぁ、せっかく来たんだ。茶くらい飲んでけ。リラ、一番奥の棚のクッキーも出してやってくれ」
「はい!」
華奢な後ろ姿を眺めて、……ん? と瞬きした。
「リラさん?」
「おう、去年からウチに派遣されてきた子だ」
「ふぅん」
山賊神父の言葉に相槌を打ちつつ、水沫君の表情をこっそり伺う。
……気付いてない、か。
ワインレッドの髪に内側がグリーンのメッシュって、インパクト有るんだけどな。
林檎のお姫様っぽくて。
……もう少し様子見よ。
「あの大天狗の孫娘……か」
ポツリと、そんな独り言が耳に入る。
それは山賊神父の呟きだった。
刹那、水沫君の空気が変わった。
ちょっ、片手が何気に武器出そうとしてるよね!?
「オッサン、何で姫様の素性を知ってる? 俺は、師匠や卒業後に顔を合わせた奴にしか就職先教えてねェから、最後に会ったのが卒業前のアンタは知らない筈だ」
就職先に関する事を一切……って、事だね。
「あー、落ち着け落ち着け。俺が知ってんのは、嬢ちゃんが胡富姫様に似とるからだ」
おっと、意外な名前が出たぞ。
「さんぞくシンプ、、バァバとしりあい?」
「おう━━ちょっと待て今『山賊神父』っつったか?」
「したてにでるヒツヨウもうなさそうだから、ネコ脱いじゃってもいいでしょ」
「強か幼女!」
パクリと、出されたクッキーを頬張る。
さくさく、ほろほろ……ハッ! これラングドシャだ! 好きっ!
「おいしー!」
「お前、とんでもねーのの世話任されてんな」
「俺は世話係じゃ……いや、現状は世話係か」
山賊神父が何か失礼な事を言っているが、そんな事よりラングドシャが美味い。
「ねぇ、バァバとなんで しりあったの? ここ、日本からとおいのに」
「ラングドシャもう良いのか? ころころ話が飛ぶなぁ」
水沫君が自分のラングドシャを分けてくれながら「それが幼児だよ」と山賊神父に返す。
だって気になるじゃん。さくさく!
「まぁ……なんだ、俺と少し関わりのあったお貴族様がなぁ、あの姫様を攫ったのさ」
「あ、いっきに しょーもない けはいが」
テンション下がる……さくさくほろり……。
「興味失せるの風の如しか」
「もうジィジが血祭りしまくった けつまつ しか みえない」
「その通りだよ。あのバケモン孫の前でも同じ事やってんのか……」
うちのジィジに『遠慮』や『配慮』といった文字は存在しない。
世渡りする上で、大事な言葉の筈なんだけどね。不思議だね。
(※自分が似てきている事に、幼女は気付いていない)
「俺は当時まだ髭が一本も生えちゃいねぇクソ餓鬼でな。あんまりに済ました顔で大人しくしてる胡富姫様の話し相手になれって、妹と城に連れてかれたんだよ。で…………」
━━妹の命が惜しければ、私が満足する便利な物を作って下さいな。
━━何か面白いお話はありませんか? ……ふむ、1点。ポチおやつよ。
━━〆切、明日ね。間に合わなければ妹さんがディナーになります。
以上が、山賊神父の記憶に根付いているバァバの発言らしい。
「……ん?」
何かバァバ酷い事言ってる……。
「番犬のオルトロスを手懐けててな。妹が餌にされる前に必死で要望に応えたよ」
「バァバがごめんね」
「恨んじゃいねぇさ。妹と俺を扱き使うフリして、周りの連中から守ってくれてたって、すぐに分かったからな」
山賊神父達は孤児だったらしい。
当時のメルトリウムはまだ錬金術師も鍛治師も殆ど居ない寂れた場所で、常世の事なんて全然知らない人間も沢山、簡単に迷い込んでいたらしい。
大人になればドワーフは低身長と恰幅の良さが際立ってドワーフだと分かるけれど、子供の時は分からない。特に孤児なんて必要最低限の栄養しか取れないから、最初は人間だと思われていたそうだ。




