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63-1 ドワーフの神父です

 髭もっじゃもじゃで顔に大きな傷があって、明らかに堅気が持ってる訳無い大きな剣、杖みたいに側に突き刺して座ってたら、神父さんなんて分かんないよ。

 それに神父様なのに、背後に纏ってるオーラが神様じゃなくて仁王なんだもん。無理無理、分からん。


 私はそんな山賊神父の目の前にいるのだが、どうやら私などノー眼中らしい。

 もう『常日頃から奴隷を売り捌いて、昨日の晩は人肉を頭から貪りました』と言わんばかりの凶悪な目は、今びしょ濡れのまま縛り上げて、ピカピカに磨かれた冷たそうなタイルに転がしてる水沫君にのみ向いていた。


「よくもうちの見習いシスター達を水浸しにしてくれたな?」

「神父様、気にしてませんから!」


 さっきから止めに入ってくれる━━とても見覚えのあるシスターさん。

 山賊神父に声が全然届いてないっぽいや。これぞ正しく馬の耳に念仏……。


「うちの教会のシスター服は肌に張り付きやすくてそっちのフェチズム持ちに始終狙われる……癖毛野郎、テメェもそっち側の男なんだろ?」


 シスター服変えろよ。

 それにうちの子を勝手にマニアックな変態にしないでほしい。

 という事で……。


「おじーちゃん、びしょぬれのふくはりつくフェチってなーに?」

「うん、嬢ちゃん。何でも無いぞ〜」


 必殺、『無垢な幼女の前でして良い話か? よく考えろよ』攻撃。

 ていうか、ビックリするくらい山賊がニッコニコな顔になったよ! ……効果覿面過ぎてちょっと引くけど……よし、このまま、どうにか無罪放免に話を持っていこう。


「ごめんね。私が水沫君のだいしゃ、てをはなしちゃったから」


 ウリュウリュと、目を潤ませる。

 目薬? 邪道だよ。最近の子は10秒で泣ける! (※偏った意見です)


「嬢ちゃんが台車を? オイ小僧、こんな小せぇ嬢ちゃんに重労働させてたのか? 何ふざけた事してんだ?」


 あ、そう来るか。


「ちがうの! 私がね! やってみたいっていったのよ!」

「はぁ?」

「姫様……良いっすよ別に」


 これまで、ずーっと黙ってた水沫君が漸く口を開いたかと思えば、いきなりロープを解いて太々しく山賊神父を見据えた。


「そのオッサン、知り合いなんで」


 は、い?


「もうちょっと乗ってこいよ小僧」


 山賊神父も髭を撫でながら、今までいつでも剣を振り被れるぜって体勢だったのに、柄から手を放して椅子の背もたれに体重を預けている。

 顔は相変わらず凶悪だけど。


「姫様、気付いてないみたいですけど、此処って今日の目的地で、このオッサンが姫様お目当てのドワーフですよ」


 え? と、私はポケットから取り出したメモを確認する。

 えーとあの角を曲がった後って……あ、本当だ。此処(メモ)に書いてる地図、真っ直ぐ行った教会に星マークが入ってる。


「何だ小僧じゃ無くて嬢ちゃんが俺の客人なのか?」


 ポカーン、と。

 山賊神父を見上げる私。


「おじーちゃん、シンプさんじゃないの?」

「神父だぜ? だがドワーフは神父もパン屋も農家だって、生まれたらまず鍛治を叩き込まれる種族だ。俺ァちと寄り道したが、打てねェもんは無ェよ。そこは心配すんな」

「じゃあ…………私のブキも、つくれる?」


 刹那、ズシンッ! という衝撃音と揺れ。


 殺意高めの拳が水沫君の体を横に吹っ飛ばし、壁に激突させたのだ。


「なんで!?」


 え……え!? 今怒る要素あった!?


「な、何しやがる……!?」

「餓鬼ガ武器ヲ所望シテル件ニツイテ、詳シク」


 壁に半分埋まったまま怒鳴る水沫君に、山賊神父は殺戮ロボみたいな喋り方だ。

 ていうかそこに怒るんだ!?


「あのね! 戦うときにホジョしてくれるモノがいるの!」


 ガッ ガッ ガッ ガッ


 水沫君が喋る間も無くタコ殴りにされ始めた。いや、もうそれ親の仇とか取る時の殴り方じゃん!


「水沫くーん!」


 何なのこの山賊神父!


「餓鬼ガ『戦う』ッツッテル件ニツイテ、詳シク」

「神父様! 本当に死んでしまいますから、その辺にしておきましょう!」


 シスターさんが腕を掴んで止めに入った所で、私も口を開く事にした。

 さっきから私が話してるのにさ、この神父何かにつけて水沫君殴りに行くんだもん。

 こっちはちゃんと話してるのに、まともに相手にされてないって事じゃん。

 それでうちの子に暴力とか、心踊る異世界代表格種族じゃ無かったら秒殺モノだ。

 つまり、気に食わねぇ!


「おじーちゃん。水沫君を殴ってないで、私とおはなしして!」

「お……? おぉ」


 私が怒っているのが、流石に分かったんだろう。

 とりあえず先に水沫君を壁から剥がして、私は山賊神父と向き合った。


「んで、嬢ちゃんはなんで武器が欲しいんだ?」

「あのね━━」


 私は自分が天狗で、今は翼が片方不完全だから万全では無い事。

 数日後に錬金術師達の認定試験のモニター兼お邪魔虫役をする事。

 そして今後、本調子じゃ無くても時想定外の荒事が起きた時に対処出来るよう、準備しておきたいと話した。


「ん、分かった。要らねェな」


 結果、バッサリと却下されました。


「えー!」

「『えー!』じゃ無ェよ。今後っつーがな、翼なんざ普通は自分でぶった切ろうとしなきゃ無くならねぇ。で、もうかなり治ってんだろ?」


 いや、まぁそうだね。私、今回の件で懲りたからね。もう絶対しない。

 ていうかこのドワーフ、天狗の事詳しいな……。

 過去に水沫君を弄くり回したのは錬金術師の皆さんって話だったけど、このドワーフも混ざってたの?


「何より武器はお前さん、天狗だったら要らねぇだろ」


 いや、その理屈はちょっと分かんないかな! 『天狗だったら要らない』ってどういう事?


「そりゃ私、しょうじき素手でツヨツヨだけど……かっこいいブキ、ふりまわしたい」

「うん、天狗じゃ無くても武器渡したく無ぇバーサーカー発言だわ」


 はい、自分でも言ってて思ったよ。

 私が職人の立場だったら、こんな危ない発言かます餓鬼に凶器渡さない。


「じゃー、ほじょのドウグ?」

「いや、今回はソレも止めとけ」


 え……じゃあ私、現状のまま当日はナナキュベータ頑張るの?

 そうなると、試験の日にたくさん霊力使って、もう少し省エネモードでの生活が長引いちゃうと思うんですが?


「そもそもよぉ、今回は小僧の認定試験なんだろ? 俺は神父で錬金術師でも無ェが、職人としちゃプロだ。俺の作った物持って試験に挑んだら、不正扱いで一発アウトになるぜ?」

「「あ」」


 私達の声が揃う。

 本当だ。どうして私達気付かなかったんだろ?

 そうじゃん、他人に作らせるなんて有り得ない。

 補助の道具こそ水沫君が錬成して作れば良い物じゃん。

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