61-2 その執事、喧嘩上等です
「おや? キミは、彼に嫌気がさして辞めて来たのでは? ……何故怒る?」
「……嫌気さそうが何だろうが、お前に言う気は無ェ」
「ふぅん」
睨み合う二人を、私は黙って眺める。
予め私に謝ってくれてなかったら、今の博士の発言、私が水沫君より先に怒っていた。
水沫君てば……、私が大人しくしてる事で気付けば良いのに。
「悪かったよ、中々デリケートな部分を刺激してしまって」
━━ 鎌かけられたって。
「大伴水沫君。私がキミの内容だけ変えるのは、キミが他の受験生よりも突飛し過ぎているから、誰よりも無理難題を強いる必要があると言いたいんだよ」
するりと腕から抜け出したアル博士は、水沫君からシモンさんへと視線の向きを変えた。
楽しそうに口元に弧を描いて、「ねえ?」って。
「同じ年に卒業したキミは━━主席卒業という座をポッと出の彼に掻っ攫われたシモン・ロペス君は、それを誰よりも分かっているから、彼に突っ掛かるんだろう?」
うわ……そういう理由だったんだ。なんか三下みたいな突っかかり方する割に弁えてると言うか、憎めない雰囲気があると思ってたけど、割とシッカリ重たい因縁が水沫君とあった訳だ。
少し視線をずらして水沫君を見たら、驚いているのか、目を微かに見開いていた。
あー、水沫君……何で毎回絡まれてるのか分かりませんオーラ凄い出してたもんね。
主席や学力順位は、感情の機微と違って結果が目に見えて出る。
そんな重たい明確な理由に気付いてなかったって……うん、まあ配慮が欠け気味の持てる者アルアルだよね。
鈍い通り越して、無神経とかアホの域。
まだ試験会場に二次試験についての放送をするよりも前だ。
アル博士から、今回ちょっとだけ水沫君に実力を理解させたいって言われた。
だから私は今、静観を決めこんでいる訳だけど……これ大丈夫かな?
水沫君は、優し過ぎ且つ真面目過ぎるところがある。自分の無神経さに要らない思考を割く可能性があるのだ。
2次試験は明日から3日開けて4日後。
テスターがお題をクリアするための道具や薬━━そう言った大事な物を作らなきゃいけないな期間だ。
そんな時期に集中力削ぐ話題、学園部活物の青春漫画の世界だけにしてほしいんですけど。
水沫君だけじゃ無くて、私にも余波が来るじゃん!
「はあああぁぁぁ……」
心配で体温が下がってしまった頃、そんな声が空気を壊した。
「大賢者様よぉ、テメェにゃガッカリだわ」
シモンさんのなっっっがい溜め息が。
「テメェは、俺が何時までも過去の、それも学院っていう小せぇ箱の中の話に拘る小心者に見えんのかよ?」
少年を下ろして、彼は博士に一歩づつ詰め寄る。
「確かになぁ、俺は主席で卒業出来なくて悔しかった。認めるてるよ。けどそれに託けてすべきは、世界で戦うならもっと我武者羅に自分の武器を何か磨くべきだったって学びからの実行だ。成分がまるで違う金属なのに、類似物ってだけで生成や複製が出来るような怪物を相手に戦わなきゃなんねぇ時、俺は全部のステータスが高いだけで、隠し玉も何も無く真正面から戦り合おうとしてたんだからな」
言いながら、彼は水沫君の方を一瞥もせずに、
「此奴に『地獄に堕ちろ』『不能になれ女泣かせ』『髪の毛全部禿げろ』ってのは、ゴキブリ見たら叩き殺すのと同じ原理だ」
指を差したかと思えば酷い事を宣った。
……つまり、生理的に受け付けないって事だね。
「良い話始めたと思ったら、後半最低では? キミ、そこまで思ってたの??」
博士、若干引き気味だ。
「あ゛? 喧しいわ下手糞大根役者」
お、シモンさんの方が賢い。
さっきから博士がちょっと癪に触る言い方してるの、ワザとだって気付いてる。
「テメェは別の意図があったんだろうが、その過程で俺に喧嘩を売った」
空気が変わったのを、ビリビリと肌で感じ取った。
「━━俺はな、売られたケンカは絶対買う派なんだわ。……二時試験、絶対見つけてブッ殺す」
━━━━覚えてろ。
お腹に響くような低い声で言い切った彼の目は、獲物に狙いを定めた獣のように光っていた。




