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61-1 その執事、喧嘩上等です

 男の娘。

 それは浪漫であり、性別の垣根を凌駕した幻の生物を指す。

 見た目だけでなく、立ち振る舞いや声色、仕草に至るまで、全てが一級、超絶無敵に完成されている。

 一見すると、女の子にしか見えない繊細な存在。しかし間違いなく男の子であり、そのギャップこそが、色々手遅れな俗物達を更に沼らせる。

 だが、男の娘はただ「可愛い」だけの存在では無い! しばしば、性別や社会的役割への偏見を一瞬で揺さぶる存在でもある。

 その存在と出会い、一瞬でも肯定してしまう時、私達の脳裏にはこんなアナウンスが流れる。


『可愛いとは、男であっても女であっても成立する』


 そして、忘れてはならないのは、男の娘の魅力が決してフィクションのみで完結しないという事である。

 街角のカフェで見かけた少年がふと見せた仕草や声の柔らかさに、心を撃ち抜かれる人だっているだろう。(※それを常人は末期の変態という)

 男の娘━━それは、物語の中の存在であると同時に、現実世界にちらりと姿を見せる妖精でもあるのだ。


 そんな(てぇて)ぇ男の娘を私は今、


 ━━滅茶苦茶泣かせたところである。


「ぐすんぐすん……、もう……お婿にいけません」


 因みに服はもう戻っている。


「おムコにいけないなら、おヨメをもらえば いいじゃない」

「パンが無いならケーキを食べれば良いみたいに言わ無いでくださいぃ!」


 んもう、ウジウジと情けない。(※諸悪の根源)


 ドドドドドドドド!


 ……? 何だろう? 変な音がす━━


「姫様ぁああ!!」

「坊ちゃああん!!」


 ━━ると思ったら、血相変えた水沫君とシモンさんが、猛ダッシュして来た足音だった。


「もう少し静かに行動でき無いのかな?」


 そんな二人に、珈琲を飲みながら呆れるアル博士。

 けれども、今の二人にとって博士はノー眼中らしかった。


「坊ちゃん! 大丈夫ですか? 嗚呼、良かった尊厳が戻って!」

「魔法少女の時、やっぱり尊厳0だったんですね……」


 優しく包容するシモンさんと、死んだ目で抱擁される少年。……に、対して。


「姫様! なぁあに勝手にテロリズムのマスコット化してんすかぁ!」

「んやああ! こめかみグリグリするのはんそくー!」


 梅干し攻撃を喰らわす水沫君と、逃げようとして失敗した私。

 何だこの差? 水沫君、遠慮無くなってきたな。


「あら水沫、遅かったじゃない」


 ちょっと存在を忘れ去られていた乃杏せんせは、どら焼きの皮を摘んで老執事さんと絶賛ティータイム中だった。

 乃杏せんせに喧嘩売ってた賢者さん? とっくに泣きべそかきながら帰りました。


「師匠、きちんと姫様見といてくださいって言ったでしょうが。こんな危険人物どもセットにして!」


 むぅ! 『混ぜるな危険』って副音声がする。解せぬ!


「私も馬鹿にお灸据えながら注意はしてたのよ? でも姫様に危害を加える気は無さそうだったから」


 馬鹿って、さっきの賢者さんだよね?

 じゃあ最初からって事かな? ……唾液に触れると爆発する飴の件は、危害に入らないんだろうか??


俺達(受験者)に深刻な危害が来そうですが?」

「試験は過酷でなんぼでしょ。何言ってんの?」


 副音声が……『本当に意味がわからない』って副音声が聞こえるよー。


「まぁ、水沫のテスターが居なくなっちゃったから、そこは大問題だけれどね」

「は? 大伴水沫のテスターは引き続きナナキュベータ君がするが?」


 思わず、おかしな事を言ってるアル博士の方を見てしまう。


「私の都合でナナキュベータ君を貸してもらうのだ。君の合格条件や難易度は他と変わるがな、そこは迷惑をかけたりしないさ」

「おい、ちょっと待て」


 シモンさんが、少年を抱えたまま博士を睨む。


「それじゃあ公平性に欠けんだろうが」

「……は? アホなのかい? 逆だよ凡夫」


 博士の目に、狂気じみた色が一瞬浮かんだ。

 背筋が……ゾワリとしたのは、私だけじゃ無いだろう。

 きっとこの場に居た全員、そうなったたに違いない。


「5年前だっけ? 彼が学院を卒業したのって? 最年少で入学しただけに飽き足らず、通常なら卒業まで6年かかるのに、僅か3年で卒業した天才……いや、鬼才かな? いつ()()()挑むのか、とても楽しみにしていた。真逆、その才能の価値も分からない老耄天狗に仕えるとは━━」


 こめかみの圧迫感から解放されるのとほぼ同時に、アル博士の首に刃を突き立てる水沫君の姿が、視界に入った。


「誰が……何だって?」

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