57-2 執事の見解、侍女の悩みです
シモンの脳裏を、思ってもいなかったのにペラペラと声に出してしまった発言が過る。
『ど田舎でお山の大将気取って暴れる事しか能の無ぇカラス、俺がそのうち駆除してや━━』
そしてその直後に植林樹を襲った攻撃。
最後のパズルのピースは、水沫と一緒に居た自分の主人に引けを取らない程、恐ろしく容姿の整った幼子の姿だ。
「まさか……」
「ええ、恐らく……鞍馬彩雲が大切に育てているという、姫君でしょう。容姿に胡富様の面影が有りましたからな」
老執事は七夜月の祖母と面識があった。
そして彩雲とも顔を合わせた事がある。
━━あんなモノと対峙するのは、2度と御免被ります。
微かに開かれた瞳に映るのは、遠き日の暗く赤い光景。
ノイズのように。
虫食いのように。
記憶の端々に、もう会う事の叶わない━━冷たくなって転がる◯◯達。
「現代の日本の常世は、昔ほど手に負えぬ魑魅魍魎で溢れてはいないと聞きます。しかし、鞍馬彩雲は……恐らく姫君を可愛がりつつも、厳しくお育てになったのでしょう。
━━━━彼女は、真正の化け物の器です」
重苦しい空気が、室内を支配した。
***
(麦穂視点)
私は、静かに考え込んでいる。
「ひひひ姫様のミナミコアリクイー! 永久保存! はぁん♡ 可愛い可愛しゅぎるぅ! 何ですかこのモフモフのけしからん服ぅ! 私も生で見たいぃぃい! このモフモフの上着のお腹に顔を埋めたいですぅ!!」
このアホのメイドを、どうやって姫様が帰ってくる前に消そうか……と。
確かこの脳天苺ミルク娘に、全部屋の掛け軸の交換と狩人ギルドへの書類送付。そしてカナカナ横丁に修理が終わった備品を取りに行くよう言ったはず。
あれからまだ20分。
どれか一つでも終わったのか?
私のスマホを横から覗き見て気持ち悪い声を上げている場合か?
嗚呼いけない。
此処最近、血管が切れ過ぎているせいか注意力が散漫している。
姫様が攫われるような隙が出来たのも、きっとそのせい。
あぁ、そうでした。『隙』で思い出しました。悠揚で、このアホがよりにもよって若様と側近である紙弦に手を出そうと、隙まみれのところに魅了をわざと掛けたという報告がありましたね。
確かに、常世の空気に慣れていない妖に、夢魔の魅了は刺激が有ります。が、若様は霊力が豊富な天狗、紙弦も中途半端な力は弾く性質を持っています。アホが意識せず放った魅了など、絶対に本来は効かないのです。
……なのに、すっかり仕置きを忘れていました。
「んぎゃあああああ!! 痛い痛い痛いですぅうう!!」
卍固めを決めます。容赦はゼロです。
「何でいきなり酷い事をぉぉおお!?」
「若様と紙弦に魅了をかけた件」
「そこに、美味しそうな男が居ったから痛ぁぁぁああい!!」
無駄にキリッとした顔で言いやがりましたね。
仕置きで済ませるには有害物過ぎた。
殺してしまおう。
「だってだってぇ! 紙弦君はぁオマケだったんですけど、若様って姫様のお兄様なだけあってぇ! 匂いが似ててー!」
「で?」
「やべーなって急遽、良い感じのオヤツを見つけてきましたぁ⭐︎ 許して欲しいですぅ!」
最近、やけに外出してると思えば……成程。
夢魔の食事は、人間の大半がそういう行為だと思っている以上、在り方として外れた行為では無い。襲ったところで妖魔堕ちはしない。
まぁ元々、西洋の妖とはそういうモノだけれども……。
少しズレたが、要は必ずしも必要なモノでは無いという事だ。
弱った時の特効薬という認識が一番しっくり来る。
しかし、時に例外はある。メイシーの現状がそう。
異常な程好みの精気を持つ存在に出会ったら、恐ろしく執着する。
よりにもよって、姫様がこのアホメイドにとってそうだった。
妖の番のように、子孫を残すという面で鬼気迫る状況に陥る訳では無いし、生涯1人しか現れない訳でも無い。
姫様はまだ幼過ぎる。育つにつれてメイシーの好みで無くなる可能性は高い。また適齢期前に、より好みの存在が現れる可能性もずっと高い。
故に楽観視していたけれども、寝ぼけでもして若様に手を出されてはシャレにならない。
……やはり殺っておくか。
「そそそその姫様の誘拐未遂の件なんですがぁぁぁああ!」




