57-1 執事の見解、侍女の悩みです
(三人称)
「何あれぇぇえええええ!?」
シモンは、恐怖一色に染まった顔で目を剥き叫んだ。
現在地は試験会場である建物の中だが、彼の事を知る老執事と主である少年が、これはすぐ試験会場には行かせられないと判断し、短時間だが空いている個室を貸してもらったのだ。
案の定、シモンはそれまで野性味の抜けていない獣のように、眉間に皺を寄せ黙って歩いていたが、三人だけになった途端喚いた。
「木がギャリギャリ言ったよ!! 抉れ方に容赦の欠片も無かったよ!! 何なんアイツあんなの出来たの!?」
先程まで、水沫達に見せていた煽るの大好きな悪役感は何処にも無い。
残念な小者感しか残っていない。
「落ち着きなさい」
「へぶぅッ」
老執事のビンタが、その柔らかな笑みや声とは矛盾して激しく響く。
腫れ上がった頬を押さえるシモンは、息も絶え絶えに「……さーせん」と謝った。
「水沫君は優しい良い子ですよ。今までキミが如何に馬鹿や間抜けを晒しても、手は上げなかったでしょう?」
「執事長……毒がキツイっす」
「アレは恐らく━━」
「『2番目の脅威』?」
老執事の言葉を遮るように問いかけたのは、少年の声だった。
「あの方のお師匠様、ずっと端末を弄ってましたけど、あの方なら僕等が察する前にあれくらい出来ますよね!」
「いえ多分━━」
「流石坊ちゃんだ! 俺の100倍賢い!」
「何言ってるんですか。シモンは僕のヒーローなんですよ! 僕に劣るところなんて無いんです」
「あの……」
「ヤベェ、坊ちゃんが天使過ぎて新しい扉開きそぶっふぁああ!!」
老執事の殺人的なビンタが、またしてもシモンの頬を強打した。
幼気な主人に不埒な気持ちを開花させようとしていた為、事前に阻止したとも言う。
執事の鑑だ。
「次は脳をブチ撒けますよ?」
床に横たわるシモンに、執事の声と笑みは相変わらず柔らかい。が、出ているオーラが邪悪な上に、腕をブンブン降って更に恐ろしいビンタを繰り出す気満々である。
「正気に……戻りました」
「シ……シモン、大丈夫ですか?」
吐血しながら、満身創痍で立つシモンを本気で心配して少年は駆け寄る。
心根の清らかさが、これまで出て来た年齢一桁キッズの中でもぶっち切りで良いのがすぐ分かる。
「シモン君、忠告しておきます。キミは、賢くは無いですが頭は良い」
「それ……世の中生き抜けない奴では……?」
「坊ちゃんに見限られなければ大丈夫です」
「僕はシモンを見限ったりしませんよ」
元気よく言い切る少年に、老執事はニッコリと、柔らかいを通り越した良い笑顔を浮かべた。
可愛いは、やはり正義なのだ。
そして再びシモンと向き合う。
「二次試験はテスターとペアのチーム戦である事、ソレはやはり今年も変わわないでしょう。……が、その内容は毎年違う」
錬金術師の認定試験は4年に一度である。ここ20年、つまり試験5回分であるが、珍しい事に、二次試験は美しさや威力、技能を一人一人が広い場所で見せつけるというパフォーマンスが連続した。
故に今年は、恐らくパフォーマンスの可能性は低い。切りの良い、節目の年である故に。
「もしも戦闘系となった場合は、今年は諦めて棄権なさい」
「は!? 何でですか!?」
「主催者側が綿密に注意事項を設定しない限り、一組を除いて今年の受験生は全員死にます」
「「!?」」
あまりにも穏やかでは無い宣言に、シモンと少年は目を見開いて固まった。
執事は「何より」と言葉を続ける。
「━━シモン君、キミは不興を買っている。いくら腹が立っていたとは言え、アレは言って良い事ではありませんでしたよ」




