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56-1 ハーレムって大変です

明けましておめでとうございます。年始一発目の話がこれなのもどうかとも思い、お正月のミニなオマケを後書きに載せる事にしました。お目汚しで無ければどうぞ。

(三人称)


「お兄さん! 帰って来てらしたんですね!」

「あらキミは、数年前うちの子に傘を貸してくれた好青年じゃない」

「うるせぇと思ったら水沫先輩じゃん、今日もお盛んな事で」


 硝子細工の如く美し過ぎる貴族令嬢のお姉様。服装こそ地味だが素材はピカイチの愛嬌たっぷり女子。いかにも商売上手な雰囲気漂う元気な看板娘。発言こそ危ないがミステリアス系黒髪美人科学者。一番最初に声をかけたご令嬢に似ているランドセルな年頃の美少女。アンニュイな雰囲気を纏う人妻。中性的な顔立ちの少し不良っぽいバイクがお似合いの女の子。

 その他にも次から次へと……。


 どっから湧いたんだ!? と顔を引き攣らせずにはいられない……。

 怒涛の如く押し寄せる様々な女性に、七夜月はとりあえずまだ倒れている執事に手をかした。


「だいじょーぶ?」

「あ……あぁ、嬢ちゃんは、アレに加勢しなくて良いのか?」

「なにいってるの? アレのかちゅうにヨウジョがつっこんだら、ふつうに死んじゃうでしょ?」

「え……嘘だろ……あの誘蛾灯クソ野郎に引っかからない女が、この世にいるだと」

「しつじさん、あたまつよく打ちすぎた?」


 隣に座り込むシモンの声は、俄かに震えている。

 驚愕と恐怖と感動が入り混じっている表情である。

 そして、ソレは彼だけでは無かった。


「なっ! 女を狂わすマタタビ糞水沫の影響を受けない幼女だと!?」

「奇跡か!? 天使か!? 前世でどれだけ徳を積んだんだ!?」


「待て! ソレより注目すべきは、彼女が


 ━━━━何処をどう見てもッ、存在するだけでGDPを7%押し上げる、宇宙規模で最可愛い美幼女である事では?」


 何てこった。

 高度経済成長期の再来である。


 一斉に、突如水で戻して増えちゃったワカメの如き女性陣に霞んで消えかけていた男性陣の目が、七夜月に集まる。


「保護せよ!」

「予算を組め!」

「今こそ『可愛い』で経済を回す時!!」

「可愛過ぎる」

「ぷにぷに」

「顔面が完成され過ぎてる」

「触りたい」

「カプってしたい」

「通報」

「お巡りさーん、こっちでーす」


 犯罪臭が立ちこめ始めたところで、試験会場前で尋常では無い騒ぎを起こしている連中がいると聞きつけた警備兵達が、全力ダッシュして来た。




 ***




「水沫君、おつかれさま」


 とは言うものの、実はまだ試験は始まってない。

 大人しく水沫ハーレムを見せつけられていたら、とんだロリコン供の標的になってしまった。それだけならまだ良かったけれど、ガチの犯罪者が多数発覚━━ゾロゾロ逮捕されて行った。怖いね。

 試験は1時間ほど遅れるらしい。


 では何故『お疲れ様』なのかと言うと、ありとあらゆるお姉様方に揉みくちゃにされ、地面に捨てられるという顛末を迎えているからだ。

 皆さん何だかんだ自分の用事で忙しいらしい。立ち去る時は、とってもドライだった。


「情けなくてスンマセン」

「これくらいなら見慣れてるから」

「わー、姫様の正直さがトドメ」


 そんな私達の様子を見ていたシモンさんが「ハッ」と、鼻で笑った。


「その辺の女ベタベタ誘っといて迷惑そうな面……相変わらず良いご身分だな」

「代わるか?」

「ブチ殺されてェのか!?」


 うーん。シモンさん、別に根は悪い執事さんじゃ無いと思うんだけど……。

 何で水沫君に、三下以下の絡み方するんだろう?


「チッ……だから天狗は嫌いなんだ。お高く止まりすぎなんだよ」

この状況(ボロ雑巾)羨ましがってるお前は奇特すぎない?」

「ンとに……気に食わねェわ。お前みたいなのを飼ってる鞍馬一族も、どうせそんな連中なんだろうな」


 ……あれ? 矛先が私達に来た?

 鞍馬一族って諸私達じゃん。


「ど田舎でお山の大将気取って暴れる事しか能の無ぇカラス、俺がそのうち駆除してや━━」


 指先で風を遊ばせる。

 薄く、鋭く━━ギリのギリで殺さないように。


 そうして放った私の旋風は、シモンさんのすぐ隣の植林樹をギャリギャリ削った。


 シモンさんの言葉が止まる。……が、これは私の狙いとは違う。

 本当は、シモンさんの首から上がああなる予定だったのだ。それが叶わなかったのは、私の前に出て来た水沫君の手が、邪魔したからに他ならない。


 ……何すんの?

 そんな非難轟々の視線を水沫君に向けたが、彼もまた真剣な表情で首を横に振った。


 一方で、明らかに歪な形になった木を見て固まっているシモンさん達。

 まぁ、水沫君は何かしてる様子無かったし、今の程度なら霊力を感知される前に放てるから、何が起きたのか理解出来なくて当然だろう。


「発言には気をつけろよ、シモン。俺に喧嘩を売るのは良いが……お館様達は、喧嘩を()()で済まさねぇ」

「……っ、知るかそんなもん」


 シモンさんはズカズカと歩いて試験会場の建物内へと入っていく。

 老執事と美少年が、申し訳なさそうに会釈して彼の後をついて行くけれど、その程度で収まるほど、私は優しくなれないのだ。


「水沫君」

「姫様……、予定変更」


 私もご立腹なんだが、水沫君の声も低くなっていて、同じように怒っていると分かった。


「俺もさ、今のは腹立った」


 服についた汚れを振り払いながら、水沫君は立ち上がって息を吐く。


「この試験でアイツの性根、叩き折らせてもらって良いですか?」


 ソレはつまり、今日の筆記試験で名前だけ書いて提出という真似を、しないという事だ。


「もち! てっていてきに! たいしゅうの まえ で ひん剥いてキッコーしばりにするよ!」

「よし、『亀甲縛り』を何処で覚えたのか後で教えてくださいね」


 単語は前から知ってたのよ、内緒だけど。

 やり方は乃杏せんせに、自由に読んで良いよって言われた本棚でね、ちょっとね。……これも一応、内緒にしとこう。

 ところで、ずっと乃杏せんせが静かなんだけど、どうしたのかな?


「水沫〜、麦穂ちゃんが『筆記、一位じゃ無ければ転職しようが追いかけて殺す』ですって」


 またしても……水沫君のスマホで勝手に麦穂とやり取りしてた。

 昨日のアレからどうやって仲良くなったの??


「ウス……」


 一瞬だけ格好良かった水沫君が、顔面蒼白になってしまった。ホント頑張って。


「あ、七姫様可愛いポーズちょーだい。麦穂ちゃんが新しいお洋服、チェックしたいって」

「しょーがないなぁ。『ミナミコアリクイのいかく』!」


 ふん! と両手を広げる私。


「年相応の可愛いを理解し過ぎでは?」

「私はなにやってもカワイイのよ?」

「姫様、さっきから可愛いって言われ過ぎて調子乗ってますね?」

「うん。でも罪レベでカワイイのはじじつ! あがめてもいいよ。ほら?」


 デコピンされた。解せぬ。

(お正月小話:過去)


「あけまて、めーとーしゃぃまう」


私、七ちゃん一才。

『明けまして、おめでとう御座います』と、言ったつもりである。


「七〜! よく言えたぞ天才だ!」

「にゃああ!」


朝一ジィジの高い高いでクルクル振り回されるのにも慣れたもんよ。

何たって転生者だからね、年始の挨拶に限らず、話し始めるのが早いと好評なのだ。

ただ、どうしても上手く舌が動かないし、まだ生えてない歯もある。もっとキッチリ発音したいけど、出来ないのがもどかしい。


「さーて、雑煮と御節だ。七は餅抜いてもらおうなぁ」

「きーとん!」

「ん? 栗きんとんか?」


そうそう。

餅は気をつけたところでツルッといって百発百中死ぬのが目に見えている。だから我儘言わないよ。

本当は滅茶苦茶食べたいけどね!

御節もね、本当はカマボコと数の子好きだけど、今世ではまだ食べられない。だから我慢するよ。

目で追っちゃうくらい食べたいけどね!


でも、私は知っている。栗きんとんは、麦穂が味薄めのを特別に作ってくれていた! はず!


「きーとん!」

「分かった分かった。食い終わったら初詣行こうな」

「にいぇ、にはく、いちぇー」


二礼・二拍・一礼と言ったつもりである。


「お前さん本当に賢いなぁ」

「えへへ〜」


撫でられるの嬉しい。

今年も一年、良い年になりますよーに!

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