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55-2 試験会場前です

 ━━でもお館様、ちょっと前に「七もそろそろ……」とか口走ってたような。


「まぁ、(入手しねェけど)方向性決めるのは有りか」


 ようやく同意を得たと、七夜月の表情がパッと明るくなる。


「がんばってね!」


 急に元気になったのを見て勘違いしてると気づく水沫だが、後でお菓子をいっぱい買って誤魔化そうと決め、今は下手に刺激しない事にした。


「名前しか描かないんでそこまで━━」


 その刹那、背後から水沫目掛けて、何かが飛んできた。

 咄嗟に反応して掴んだ彼はソレが何かを確かめる。

 掴んだ瞬間にヒビが入ったのだろうソレは、虹色のカケラになって地面に散った。


「なんだビスマス結晶か……いや誰だよこんなの投げやがって」


 ダイヤのように硬度は無いが、野球ボールサイズのビスマス結晶など普通に投げられて良い物では無い。


「アッレェ?? 極東のカラスが居るなぁ」


 わざとらしい大声だった。

 水沫は面倒臭そうに溜め息を吐き、七夜月はチラリと乃杏の足元から声の主を伺う。


「んじゃ、俺行くわ」

「くぉら【ピー】野郎!! 何事も無かったみたいにしてんじゃ無ェ!!」

「……チッ、子どもの前で下品な言葉使うんじゃ無ェよ」

「おっと、ソレもそうか」


 意外にも素直に同意した事で、七夜月の中で声の主の株がやや上がる。


「しりあい?」

「同期っす」


 小声で聞いてから、もう一度声の主を観察した。

 上等な燕尾服。橙に近い赤毛の彼は、犬歯が時折目立って見える。


 ━━獣系の妖か、メイシーみたいな悪魔系かな?


 そう七夜月が予想していると、更にその背後の年老いた執事と、老執事にくっ付いている可愛い存在に気が付いた。


「か……っ(わいい)」


 輝かんばかりの、非常に整った顔立ちの少年だった。

 きょるんとした金の瞳に、水色の髪が爽やかで、全体が愛らしい。白いクマのぬいぐるみが似合いそうな、儚げ少年(ショタ)がそこに居た。

 赤毛執事が言葉遣いについて同意したのは、間違いなくこの少年の存在が大きい。


 少年は老執事にしゃがむようせがんで、こしょこしょと耳打ちする。

 ソレに対して老執事は優しい笑顔のままコクコクと頷き、


「『【ピー】野郎』とは何か? でございますね。覚えなくて良い単語で御座います。忘れましょう。シモン君、後で爪剥ぎの刑ね」


 激かわ少年には優しく対応し、水沫に絡んでいる赤毛執事━━シモンには血も涙も無い宣告をした。


「執事長ぉぉおおおお!?」

「良かったな。爪が無くなる程度で」


 尚、水沫のこれは嫌味でも何でも無い。

 七夜月の語彙が元々多いため助かっているが、もしも七夜月に新たな言葉(下ネタ系)を教えた場合、麦穂なら全身の骨をズタズタに折りに来るからだ。


「くそっ! お前に関わると碌な事にならねェ!」

「じゃあ嬉々として関わって来んなよ」

「うっせ! こっちはジジイの代から天狗にゃ━━」

「んひゃー! 水沫さんだ水沫さんだ水沫さんだぁぁぁあ! クンカクンカ!!」


 何か言っていたシモンが吹っ飛ばされ、水沫の前に突進してくるように現れた小柄な女性が、あろう事かその腹に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。


 七夜月はそんな女性と、偶然にも手を伸ばせる位置に倒れたシモンを思わず交互に見る。


 ━━これまた……いきなり濃い展開。


「シュシュ!? お前も試験受けんのかよ! つーか嗅ぐな擽ってぇ!!」

「足りないんです!! ここ最近筋肉隆々の男臭い場所に押し込まれてたんで程々になよっちい成分が足りないんです!」

「再会そうそうディスってきてる!?」


 しかし、その女性の出現は、まだ始まりに過ぎなかった。


「あら、後輩君戻ってきてたの?」

「え、うそ! 水沫さん? どどどどうしましょ、私ってばすっぴんです!」

「あー! みー君、居るんやったらうちの店に一番に顔見せてぇな」

「おやおや助手8号君じゃないか試験が終わったら一緒にまた爆弾の開発を手伝ってくれるかな?」

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