5-2 来客です
御前試合から約1ヶ月経った。
原作で嫌われ者ムーブかましてたけど、あの子、普通に大切にされとるやん! と思って、もう此処2週間ほど綺麗に忘れていたのだが、今日になっていきなりあの子の死ぬシーンが夢に出て来た。
鬱になりそう。
「はぁ……」
「姫様、お勉強はもう宜しいのでは?」
「ふつー、もっとシュウチュウしなさい、って言うとこでは?」
「サボり気味の方には言いますが、朝の7時からご飯も食べず、ぶっ続けで自主勉強を始めてもう15時ですよ?」
「きょうは、そんな日」
これでも一応良いとこのお嬢様だ。
英才教育というものを受けている。
家庭教師の先生が居ない日は課題をするのがルーティーン。しかし、外に出る元気が朝の夢で無くなった為、課題以外の問題集にも手を出していた。
いや、『元気が無くなった』は少し語弊があるな。
朝の夢を見て、不安になったが正しい。
不安な時は絶対に外に出たくないけれど、何もしないともっと不安になる。
よって私はそういう気分の時は勉強している。
変な事考えずに済むから。
「では、このお菓子は私一人で頂きますね」
「んー、わかっ……まって、食べる!」
麦穂の手には、盆に乗った綺麗な和菓子……では無く、某チョコ菓子が山盛りにされた大皿があった。
ふぅー! キノコとタケノコが混在してるぅ! 好き! 麦穂ってば私の事よく分かってる!
「あら、雲が嫌な色になって来ましたね」
もちゃもちゃお菓子を堪能していると、外を見た麦穂が呟いていた。
確かに黒っぽい。今日はお出かけしなくて正解だったね。
「……姫様、お召し物を整えましょうか」
「え? なんで?」
出かける気ゼロよ?
「こういう日は、招かれざる客が訪れると相場が決まっています」
「……なるほど?」
パジャマは駄目? ……あ、はい着替えます。
黄色いパジャマから、白のフード付きワンピースに着替えた。
常世は全体的に景観が和風だし、我が家は寺と旅館と城が合体したの? というくらい大きな日本邸(※敷地内に山も川もある)だが、私の普段着は現世の都会に居ても浮かない物が多い。
だって楽なんだもん。
ま、外にはやっぱり出ないんだけどね。
「すっごい雨……あと風」
薄いガラス窓がガタガタ揺れている。
妖術使いの一流職人が、強化と風避けの術式を刻んでいるので割れる事も無いし、何なら窓を開けても雨が吹き込んで来ないチート設計なのだが、不安は拭えない。
このガタガタ音が元からの仕様なのか、それとも術では完全に抑えきれない程酷い天候なのか、それを知る者はこの家に居ない。
「七や、梅ジュースでも飲むか?」
「のむ!」
梅シロップの瓶を持って居間に向かうジィジに着いて行く。
家は敷地内にたくさん梅の木があるので、毎年皆で梅シロップや梅干し、甘露煮を作って、専用の部屋に保存しているのだ。
シュワシュワで割るか、水で割るか……今日はどっちにしよう?
そんな風に、持ち手付きのガラス瓶の中で、時折跳ねるように動く梅を見つめて悩んでいた時だった。
「お館様! 姫様! 大変です!」
うわぁ……、何か来た。
使用人の一人に着いて行くと、玄関には一人の護衛の男性と、柊恩寺簪の姿があった。
ずぶ濡れで、泥と血により、至るところが汚れた姿で。




