1-1 転生です
高座の大猿が語る。
極東の島国の大天狗には、1羽の倅が居た。
倅は文武共に優秀なり。齢五つにして大嵐を呼ぶ事も出来た。次の大天狗はこの倅以外に有り得ぬと誰もが思ったが、倅は人の世の生活を好んでいた。これに怒ったのが若い天狗衆と、天狗と交流を持つ他の妖達である。
斯くして、人間として暮らしたい倅天狗と、その周囲との外道の闘いの火蓋が切られたのである。
しかし、是より語るは、倅天狗の物語に在らず。
其の妹━━大天狗の中の大天狗。今は隠居し久しい御方。『お館様』或いは『大魔王』と呼ばれし先代大天狗が可愛がる秘蔵っ子。
天狗姫こと鞍馬 七夜月の物語である。
***
「|おぎゃあああぁぁぁああ《最ッッ悪だ》!!」
「おーおー、子泣き爺ばりに泣くじゃぁねーの」
埃まみれの広い部屋で、そう言って抱き上げる金髪の美丈夫は、父親では無い。
つい数十分前の事。死んだと思いきや生まれたてのベビちゃんになっており、いきなり父親に『これは要らぬ』と、誰もいない広すぎる部屋に放り込まれた。
いきなり何なん? 新生児に対して酷すぎん? しかもあの男、止めようとした母親や産婆さん、他の侍女っぽい人達を殴る蹴るで蹴散らしてったからね。
……て言うか、美丈夫よ、アンタ誰さ?
「うーむ『アンタ誰さ?』という目だな。簡潔に言おう、お前の祖父だ」
……はい? 祖父!? わっか!!
「はっはっは! 『若い』ってか? そうだろう、そうだろう。しかも千年に1人のイケメンだろう」
ふーん。
「反応薄くね?」
三次元の周囲にイケメンが居た事が無いから、イケメンの差異分からん。
「……ま、まぁ良いか。赤子にはまだ早かったのだな」
あれ? 今のは伝わらなかったんだ。この祖父、別に心が読めるって訳じゃ無いのね。
「にしてもあの阿呆は、こんなに可愛い子を蔑ろにするとはな……育て方をちと間違えたようだ」
そうだった。祖父って事はこの人、アレの親だわ。
「安心しろ。お前さんは儂が育てる。お前さんの母親は連れて来れなんだが、一番良い侍女を寄越してくれるそうだ」
お……おう。ギスギスの限界家庭生活は回避したのね。良かった。
「名は……そうだなぁ。七夕の月の生まれだから『七夜月』にしようか」
キラキラネーム!!
「夜凪にも合わせてやりたかったんだがなぁ……、阿保が土蜘蛛の山に使いに出しちまった。帰りは儂らが立った後になるなぁ」
夜凪? 誰だろう?
「あぁ、夜凪はお前さんの兄だ。次の天狗の頭領だな」
ほへー、天狗。………………天狗の、夜凪?
こ、此処って! もしかしなくても、『碧空は今日も』の世界ですか!?
まだピンピン覚えている前世知識に、私は暫し固まった。