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ラウンド1:「冒険の動機論」

ラウンド開始


あすか:(クロノスを操作し、背景に「第1ラウンド:なぜ人は冒険するのか」の文字を表示)「それでは第1ラウンド、『なぜ人は冒険するのか』について、もっと深く掘り下げてみましょう」(各人を見回しながら)「先ほどのお話で、皆さんそれぞれ異なる動機をお持ちであることが分かりました」


あすか:「でも、本当にそれだけなのでしょうか?」(意味深な笑みを浮かべて)「マルコさん、あなたは17歳で旅に出られました。その時、本当に『商売』だけを考えていたのですか?」


動機の本質的対立


マルコ・ポーロ:(少し考え込んでから)「いい質問だね、あすかさん」(苦笑いしながら)「正直に言おう。最初は父のニコロと叔父のマフェオについていくだけだった。17歳の少年に何ができるというんだ?」


アメリア・イアハート:「それそれ!」(身を乗り出して)「最初はそんなものよね。私だって飛行機を見た時、何も考えてなかった」


マルコ・ポーロ:「そうなんだ。でもね」(表情が変わり、目が輝き始める)「コンスタンティノープルを過ぎ、サマルカンドの青いタイルを見て、カシュガルの賑やかな市場を歩いた時...『これは絶対に商売になる』と確信した」


マルコ・ポーロ:「美しいものには必ず価値がある。そして価値があるものは、それを知らない人々にとって宝物になる」(情熱的に語りながら)「私が東方の胡椒や絹を西欧に持ち帰れば、みんなが幸せになれる。売る方も買う方も、そして私も」


アメリア・イアハート:「でもそれって結果論でしょ?」(ちょっと不満そうに)「最初から『商売、商売』って考えてたら、そんな美しいものも見えなくなっちゃうんじゃない?」


マルコ・ポーロ:「それは違うな」(首を振って)「商売人だからこそ、美しいものに敏感になるんだ。価値を見抜く目がなければ、良い商売はできない」


アメリア・イアハート:「うーん...」(納得いかない様子で)「私が初めて飛行機を見た時の気持ちとは違うわね。あの時は本当に純粋に『空を飛びたい』って思っただけ。お金のことなんて微塵も考えてなかった」


アメリア・イアハート:「空港で10分間のデモフライトを見ただけで、『私の人生はこれよ』って分かったの」(目を閉じて当時を思い出すように)「あの青い空、風を切って進む機体...自由そのものだった」


鄭和:(厳かな口調で)「お二人とも個人的な感情に流されすぎです」(テーブルに手をついて)「冒険には責任が伴う。特に大きな冒険には、大きな責任が」


あすか:「鄭和さんの場合は、最初から『責任』を背負っていたのですか?」


鄭和:「その通りです」(背筋を伸ばして)「永楽帝陛下から『南海を制し、朝貢国を増やせ』との勅命を受けた時、私の肩には2万8000人の命と、明朝300年の威信がかかっていました」


鄭和:「個人の感情で動けば、皆を危険に晒すことになる」(マルコとアメリアを見て)「『やりたいから』『面白そうだから』などという理由で、これだけの大事業はできません」


マルコ・ポーロ:「でも将軍殿」(興味深そうに)「その『責任』を最初から重く感じていたのですか?それとも...」


鄭和:「何が言いたいのです?」


マルコ・ポーロ:「私が元朝で見た宮廷の人々は、皇帝の命とはいえ、どこか楽しんでいるようでした」(にやりと笑って)「新しい土地を見る喜び、珍しい人々と出会う興奮...そういうものは感じませんでしたか?」


鄭和:(少し言葉に詰まって)「それは...」(長い沈黙の後)「確かに、セイロンで巨大な仏歯を見た時、マラッカで多様な民族が共存する様子を見た時...感動はありました」


アメリア・イアハート:「ほら!」(嬉しそうに手を叩いて)「やっぱり心の奥には『知りたい』『見たい』っていう気持ちがあったのよ」


鄭和:「しかし、それは副次的なものです」(頑なに)「主たる動機は皇帝陛下への忠義」


伊能忠敬:(穏やかに手を上げて)「皆さま、少しお待ちください」


あすか:「伊能先生、いかがですか?」


伊能忠敬:「皆さまのお話を伺っていて思うのですが...動機というものは、最初から完全に定まっているものでしょうか?」(ゆっくりと話す)


動機の複層性と変化


伊能忠敬:「私の場合を例にお話しします」(謙虚に)「最初は本当に単純な好奇心でした。夜空を見上げて『星はなぜ動くのだろう』『暦はなぜ少しずつずれるのだろう』と」


伊能忠敬:「50歳で隠居してから江戸に出て、高橋至時先生のもとで暦学を学びました。その時も『知りたい』という気持ちだけでした」


アメリア・イアハート:「それよ!その純粋な『知りたい』っていう気持ち!」


伊能忠敬:「ところが、学んでいるうちに気づいたのです」(表情が真剣になって)「正確な暦を作るには、正確な地球の大きさを知らなければならない。そのためには正確な測量が必要だと」


伊能忠敬:「そして実際に測量を始めてから、これは個人の興味だけでは済まないことが分かりました」(少し声を落として)「間違った地図を作れば、後世の人々に迷惑をかけてしまう。船乗りが遭難するかもしれない。軍が道に迷うかもしれない」


鄭和:「なるほど」(うなずいて)「個人的な動機が、いつの間にか社会的な責任に発展していったと」


伊能忠敬:「その通りです」(深くうなずいて)「気がつけば『国のため、人々のため』という使命感が生まれていました。でも、その根底には今でも『正確に知りたい』という個人的な欲求があります」


マルコ・ポーロ:「それは分かるな」(膝を打って)「私だって最初は父についていくだけだったが、東方の素晴らしさを知ってからは『これを故郷の人々に伝えたい』という気持ちが強くなった」


マルコ・ポーロ:「商売は確かに大事だが、それだけじゃない。異なる文化を橋渡しする喜び、人々の驚く顔を見る楽しさ...そういうものも大きな動機になっていた」


アメリア・イアハート:「そうなのよ!」(興奮して)「私だって最初は単純に『飛びたい』だったけど、飛んでいるうちに『女性だってできる』ってことを証明したくなった」


アメリア・イアハート:「1920年代のアメリカで、女性が空を飛ぶなんて『とんでもない』って言われてたの」(少し怒りを込めて)「でも私は証明したかった。女性にも無限の可能性があるって」


鄭和:(長い沈黙の後)「皆さんの話を聞いて...私も正直に申し上げましょう」(声のトーンが少し柔らかくなって)


鄭和:「確かに皇帝陛下への忠義が第一でした。しかし...」(少し迷うように)「各地で出会った人々との交流、異なる文化への驚き、そして何より『未知の海を探検する』という純粋な興奮もありました」


アメリア・イアハート:「やっぱり!」(嬉しそうに)


鄭和:「ただし」(再び厳格な表情に戻って)「それらの感情に溺れることはありませんでした。常に『これは国家事業である』という自覚を持ち続けました」


あすか:「興味深いですね」(クロノスに各人の動機の変化を図示しながら)「皆さんとも、最初はシンプルな動機だったものが、経験を積むうちに複雑で多層的になっていった」


感情vs理性の白熱議論


あすか:「では次の質問です。冒険において『感情』と『理性』、どちらがより重要だと思いますか?」


アメリア・イアハート:(即座に)「感情よ!絶対に!」(立ち上がって)「理性だけなら誰も冒険なんてしないわ。最後の一歩を踏み出させるのは、心の奥の『やりたい』っていう強い気持ちよ」


マルコ・ポーロ:「ちょっと待てよ」(手を上げて)「感情は確かに大事だが、それだけでは危険すぎる」(立ち上がってアメリアと向き合う)「君の情熱は素晴らしいが、計算なしに太平洋を渡ろうとして...」


アメリア・イアハート:「何よ、それ!」(顔を赤くして)「私がちゃんと計算してないとでも言うの?」


マルコ・ポーロ:「いや、そうじゃない」(慌てて手を振って)「ただ、感情だけに頼りすぎると...」


アメリア・イアハート:「私は感情だけで飛んでるんじゃないわよ!」(声を荒げて)「気象データも調べるし、機体の整備も徹底的にやるし、航路だって何度も検討する」


アメリア・イアハート:「でもね」(少し声を落として)「そういう準備を全部やっても、最後に『飛ぼう』って決めるのは心よ。理性だけなら『危険だからやめておこう』ってなるはず」


鄭和:(仲裁するように)「お二人とも落ち着いて」(威厳のある声で)「感情と理性、どちらも必要なのは確かですが、それをどうバランスを取るかが問題です」


マルコ・ポーロ:(席に戻りながら)「そうですね、将軍殿」(アメリアに向かって)「失礼、君を批判するつもりはなかった」


アメリア・イアハート:(少し表情を和らげて)「私こそ、ごめんなさい。つい熱くなっちゃって」


鄭和:「私の経験では、感情は出発点、理性は継続の力だと思います」(ゆっくりと説明する)「最初に『やってみたい』という感情がなければ始まらない。しかし、困難に直面した時、それを乗り越えるのは冷静な判断力です」


伊能忠敬:「鄭和さまのおっしゃる通りです」(うなずいて)「私も星空への憧れから始まりましたが、実際の測量では正確性が全て。一歩間違えれば、全ての計算が狂ってしまいます」


伊能忠敬:「でも」(少し笑みを浮かべて)「70歳を過ぎて北海道の雪原を歩いている時、『なぜこんなに苦労しているのだろう』と我に返ることがありました」


アメリア・イアハート:「その時はどうされたんですか?」


伊能忠敬:「不思議なことに、その時決まって夜空を見上げるのです」(遠い目をして)「そうすると『ああ、星を正確に測りたい』という最初の気持ちが蘇ってきて、また歩き続けることができました」


マルコ・ポーロ:「それは分かる!」(膝を打って)「私もシルクロードの砂漠で迷った時、最初にサマルカンドで見た美しい建物を思い出した。『あの美しさを故郷の人に伝えたい』という気持ちが、歩き続ける力になった」


アメリア・イアハート:「でしょう?」(嬉しそうに)「やっぱり最後は心なのよ。理性は大事だけど、心の炎が消えたら何もできなくなっちゃう」


利益vs理想の深い対立


あすか:「面白い展開になってきました」(クロノスを操作して)「では、もう一つ核心的な質問を。冒険の目的として『実利的な利益』と『理想的な価値』、どちらがより尊いと思いますか?」


マルコ・ポーロ:(少し構えて)「これは...難しい質問だな」


アメリア・イアハート:「理想よ!」(迷わず答えて)「お金や名声のためだけの冒険なんて、冒険じゃないわ」


マルコ・ポーロ:「ちょっと待ってくれ」(身を乗り出して)「君は『お金のため』を悪いことみたいに言うが、それは間違いだ」


アメリア・イアハート:「え?」


マルコ・ポーロ:「考えてみろよ。私が東方から持ち帰った胡椒や絹は、確かに大きな利益をもたらした。でもそれによって、ヴェネツィアの人々の生活は豊かになり、料理は美味しくなり、衣服は美しくなった」


マルコ・ポーロ:「私一人が儲けただけじゃない。胡椒を作る東方の農民、それを運ぶ商人、それを買う西欧の人々...みんなが幸せになったんだ」


アメリア・イアハート:「それは...確かにそうだけど」(少し戸惑って)


マルコ・ポーロ:「利益を追求することは、価値を創造することなんだ」(情熱的に)「美しいもの、有用なもの、珍しいものを見つけて、それを必要とする人のところに運ぶ。これ以上に尊い仕事があるか?」


鄭和:「マルコ殿の言うことも分かりますが」(慎重に)「しかし、個人の利益だけを追求すれば、必ず誰かが損をします。我々の大航海は利益ではなく、天下の平和と繁栄を目指しました」


マルコ・ポーロ:「でも将軍殿、その『天下の平和』だって結局は実利的な目的じゃないですか?」(挑戦的に)「朝貢国が増えれば明朝の国力は増す。それも一種の『利益』でしょう?」


鄭和:「それは...」(困惑して)「確かに結果的には国益になりますが、動機が違います」


アメリア・イアハート:「でも私は違うわ」(強く言い切って)「私が空を飛ぶのは、お金のためでも国のためでもない。女性の可能性を証明するため、そして何より『飛びたい』という純粋な気持ちのため」


マルコ・ポーロ:「それも立派だが」(優しく)「でも君、その『女性の可能性』を証明することで、後の女性たちが得る利益を考えたことはあるか?」


アメリア・イアハート:「利益って...」


マルコ・ポーロ:「職業の選択肢、社会的地位、経済的自立...君の冒険は確実に女性たちの『実利的な利益』につながっている」


アメリア・イアハート:(長い沈黙の後)「そう言われてみると...」(困惑した様子で)


伊能忠敬:「皆さま、この議論は少し袋小路に入っているような気がします」(穏やかに)


あすか:「伊能先生はどうお考えですか?」


伊能忠敬:「私は思うのですが...『利益』と『理想』を対立するものと考える必要はないのではないでしょうか」(ゆっくりと)


伊能忠敬:「私の地図作りを例にします。私の動機は『正確に知りたい』という理想でした。しかし、その結果作られた地図は、商人の方々にも、武士の方々にも、一般の旅人にも実用的な利益をもたらしました」


伊能忠敬:「理想を追求した結果、実利が生まれた。そして実利があったからこそ、私の理想も多くの人に支持されました」


鄭和:「なるほど...」(考え込んで)「確かに我々の航海も、理想的な目的と実利的な結果が一致していました」


マルコ・ポーロ:「そうか!」(手を叩いて)「つまり、良い冒険というのは理想と実利が両立するものなんだ」


アメリア・イアハート:「でも...」(まだ納得しきれない様子で)「お金を第一に考えたら、純粋な気持ちが汚れちゃうんじゃない?」


動機の純粋性について


マルコ・ポーロ:「君の気持ちは分かるよ」(優しく)「でも考えてみてくれ。私が東方の美しさに感動したのは、それが『売れそう』だからじゃない。本当に美しかったからだ」


マルコ・ポーロ:「そして、その美しさを故郷の人々と分かち合いたいと思った。商売はその手段に過ぎない」


アメリア・イアハート:「手段...」(少し考えて)


マルコ・ポーロ:「そうだ。君が飛行機を操縦するのも、空への憧れという純粋な気持ちが第一で、女性の地位向上は結果的についてきたものだろう?」


アメリア・イアハート:「それは...そうね」(うなずいて)


鄭和:「私も同じです」(少し表情を和らげて)「皇帝陛下への忠義が第一でしたが、各地で出会った人々との友好関係を築くことに純粋な喜びを感じました」


伊能忠敬:「皆さま、とても良い議論になってきました」(嬉しそうに)「つまり、冒険の動機は最初から完璧である必要はない、ということでしょうか」


あすか:「どういうことでしょう?」


伊能忠敬:「個人的な興味から始まっても、それが社会的な価値を生むことがある。逆に、社会的な使命から始まっても、個人的な喜びを発見することがある」


伊能忠敬:「大切なのは、その過程で自分の動機を見つめ直し、より良い方向に発展させていくことではないでしょうか」


アメリア・イアハート:「なるほど...」(深くうなずいて)「私も最初は単純に『飛びたい』だったけど、飛んでいるうちに色んなことが見えてきた」


マルコ・ポーロ:「そうそう」(嬉しそうに)「冒険は動機を純化させるプロセスでもあるんだ」


鄭和:「確かに、7回の航海を通じて、私の使命感はより深く、より広いものになりました」


ラウンド1まとめ


あすか:「素晴らしい議論でした」(満足そうに)「第1ラウンドをまとめてみましょう」(クロノスに要点を表示しながら)


あすか:「最初は4つの全く異なる動機が提示されました。マルコさんの『実利追求』、鄭和さんの『国家使命』、アメリアさんの『個人的情熱』、伊能先生の『学問的探究』」


あすか:「しかし議論を深めるうちに、これらの動機は対立するものではなく、冒険の過程で複雑に絡み合い、発展していくものだということが分かりました」


マルコ・ポーロ:「感情派のイアハートちゃんも、実は計算もちゃんとしてるしね」(茶化すように)


アメリア・イアハート:「ちゃん付けはやめて!」(笑いながら)「でもマルコの商売も、根底には美への愛があるってことが分かったわ」


鄭和:「国家への忠義と個人的な探究心も、必ずしも矛盾するものではありませんね」


伊能忠敬:「はい。そして何より、良い冒険というのは自分一人のためでなく、最終的には多くの人のためになるものだということが見えてきました」


あすか:「まさにその通りです」(感心して)「では皆さん、この『動機の複層性』を踏まえて、第2ラウンドに進みましょう。今度のテーマは『リスクとの向き合い方』です」


あすか:「冒険につきものの危険を、皆さんはどう乗り越えてこられたのか?」(期待に満ちた表情で)「きっとまた、興味深い議論になりそうですね」


全員:(それぞれうなずき、次のラウンドへの期待を示す)


あすか:「それでは、少しの休憩を挟んで、第2ラウンドに参りましょう!」


(第1ラウンド終了)

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