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6 心霊番組に映っていたのは!

「スーツケース手にいきなりやって来て、しばらく泊めて欲しいなんていうから驚いたけど、そういうわけだったんだ。てか、悪霊の件は簪を手放して解決したんじゃなかったの?」

 暎子の中で女の霊は、悪霊に格下げされたようだ。いや、心霊好きの暎子にとっては格上げか。


「私もそう思っていたんだけど」

 昨晩、女の霊を見た直後、キッチンの床で身体を丸めた状態で気を失ったらしく目覚めると朝になっていた。

 それから、慌ててスーツケースに必要なものを詰め込み、こうして暎子のアパートに転がり込んだというわけである。


 キッチンの堅い床と、おかしな体勢で意識を失っていたことで体中が痛い。

 ベッドを背もたれに、床に座っていた紗紀は、身体を丸め膝を抱えた。

「つまり、女の霊が現れたのは、例の簪が原因じゃなかったってわけ?」

 キッチンから鍋を手に、暎子がやってくる。

 今日の夕飯は水炊きだ。


「どうだろう。まだ何とも言えない」

「まあ、部屋に呼ぶような彼氏もいないし、とりあえず、気が済むまでここに居てもいいけど、アパートはどうするの?」

「うん、どうしよう」


 怖くて逃げるように飛び出して来たのだ。

 先のことなど、何も考えていない。

「実家に帰ると大学に通うのが遠くなるし、新しいアパート、探さないと」

 父のこともあるし、いっそのこと大学は辞めて実家に帰ろうか。


「簪が原因ではないとなると、あの部屋自体が問題だったのよ。不動産に文句を言うべきじゃない? 毎晩悪霊が現れる事故物件だって」

「この間も話をしたけれど、あの部屋に住むのは私が初めてだから、事故物件はあり得ないと思うんだ」

「なら、部屋が問題じゃなく土地よ。土地に何かしらの因縁があったのよ」


 何がなんでも、暎子は事故物件にしたいようだ。

「土地が原因でも事故物件って言えるの?」

「じゃあ聞くけど、アパートが建つ前、そこには一軒家があって、そこで一家惨殺事件が起きたと知っていても紗紀は今のアパートを借りた? あるいは大昔、そこが処刑場で大勢の罪人が殺された。あるいは区画整理する前は墓場だったとしても?」

 紗紀は激しく首を横に振る。

「つまり、そういうこと」


 暎子はニタリと笑い、鍋の中身を小皿にとりわけ紗紀に渡す。

「ありがとう。あ、素敵なお皿」

 黒地に金箔の模様が描かれた洒落た器であった。

 心霊大好きオカルトマニアの暎子が、こんな趣味のいい食器を揃えているとは驚きであった。


 さらに、薬味皿は立体的な花びらの形を模し、箸置きにも使えるデザインで食卓に華を添えた。

「お洒落なお皿を集めるのが趣味なんだ。飲む?」

 と、暎子が缶ビールを手渡してきた。


 器には凝っていても、缶ビールは直飲みなのねと紗紀は苦笑する。

「ありがとう。迷惑かけてごめんね」

「気にしなくていいって」

「夕飯までごちそうになって」

「材料は紗紀が買ってきたものじゃん。おかげであたしは大助かり。実は、今月お金がなくてヤバかったんだよね」


 渡された缶ビールを一口飲む。

「おっと、テレビつけるね。楽しみにしていた番組があるんだ」

 時計を見て、暎子はすかさずテレビのリモコンを取り、目的のチャンネルに変えた。

 紗紀もテレビの画面に向き直る。


「さて、今夜も始まりました『霊界から語りかける声』視聴者から寄せられた数々の恐怖体験を元に、再現VTRでご紹介いたします」

 紗紀は顔を引きつらせた。


 いかにも、心霊好きの暎子が好みそうな番組だ。

 自分なら絶対に観ることはない。

 興味がないし、何よりこういった番組を観ると、意図せずそういったモノを引き寄せてしまうことがあるから。

 暎子は缶ビール片手に、目を輝かせテレビに集中している。

 テレビでは番組司会者のトークが続き、そして本日のゲストの紹介に入った。


「今夜も視聴者からの熱いご要望に応え、あの超人気霊能者、伊月一空先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いいたします!」

「ぶふっ!」

 紗紀は飲んでいたビールを吹き出しそうになった。


 え?

 え? ええーっ!

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