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13 再び役目を与えられた人形

 いや、それはさすがに。

 だが、一空は霊能者。

 人の前世を霊視で視られる。

 だから、少女が、姉妹の母親の生まれ変わりだと一空が感じ取ったのなら、きっと、そうなのかもしれない。

 紗紀は口を開けたまま、一空が続ける言葉を待った。


「市松人形はお雛様と同様、その子に降りかかってくるであろう難を身代わりに受けてくれる身代わり人形とも言われていることは知っているな」

「はい」

「その子の一生を守るお守りとして願いが込められた人形だ。しかし、人形は姉妹を守る役割を果たせず、姉妹の母親に謝り続けた」

 彼女たちを守れなくて『ごめんなさい』と。


「紗紀、少女が手にした途端、人形の顔つきが変わったのは見たな?」

「はい、何だか穏やかな顔になったように見えました」

 さらに、少女はこんなことを言っていた。


『これからはずっと一緒だよ。今度こそ、大切にするからね』


 そっか。あの少女が人形に執着するのはそういう理由があったからか。

「一度は姉妹の母親によって呪いの人形だと罵られ手放されたが、こうして再び縁を結び、許された。人形の心残りは母親の生まれ変わりである、あの少女によって浄化された」

 そして再び、新たな持ち主であるあの少女の、難を身代わりとなって受けてくれる身代わり人形として役目を得られた。

 それで、一空はあの人形を少女に渡したいと思った。

 価値ある芸術品とか関係なく、あの少女の手に渡るべきだと。


「縁か。不思議ですね」

 言葉では説明できない、不可思議なことがこうして身の回りで起こるなんて。

「じゃあ、この件は終わったと考えていいのですね」

「そうだな。すべて紗紀が終わらせたようなものだ。よくやった。見事だったよ」

「そんなこと……」

 そんな風に言われては照れくさいではないか。それに、特に何かをしたという感じはないのだから。


 恥ずかしさを隠すように紗紀は話題を変える。

「ところで一空さん、人間国宝が手がけたあの人形の販売価格、本来いくらなんですか?」

「ああ」

 と言って、一空は価格を告げる。

 その値段を聞いた紗紀は卒倒しかけた。





 それから数日後、相変わらず用もないのにチャラ弁が『縁』にやって来た。

「いっくう、そういえばここに置いてあった、いかにも怪談話に出てきそうな人形はどうしたの?」

 人間国宝の人形も、価値を知らない人から見れば気味悪い人形でしかないのだ。


 私も最初はそう思っていた。


 一空が相手にしないから、代わりに紗紀が答える羽目になる。

「売れました」

「え、まじで! 売れたんだあの人形……さすが紗紀ちゃんだよ。あんな気持ち悪い人形を浄化させて売っちゃうなんて。やっぱり紗紀ちゃんなら、いっくうにかけられた呪いを解いてくれるんじゃないかな。ねえ、そう思わない、いっくう?」

 さあ、と興味なさそうに答える一空にチャラ弁は人差し指を立て、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。


「いっくう、いいかい? 絶対に紗紀ちゃんを手放しちゃだめだよ。紗紀ちゃんもいっくうを絶対に見放したりしないでね」

「私がどうやって一空さんの呪いを解くというのですか? 前世のことなんて思い出すのも不可能だし」

 チャラ弁は腕を組みうん、と一つ頷く。

「それについて、僕もいろいろ方法を考え、一つの可能性を見つけたんだ」

「え? すごいです。で、その方法とは?」


 見た目チャラ男でも、さすが敏腕弁護士。

 頼もしいことこの上ない。

 チャラ弁は腕を広げ、得意げな顔で言う。


「簡単なことだよ。紗紀ちゃんがいっくうを好きになればいいんだ。いっくうに好意を抱けば呪いは相殺されるんじゃないかなって。それと、キス? ほら、童話であるじゃない、呪いをかけられたお姫様が、王子様のキスで目覚めるってアレ。呪いっていうのは案外そんな感じで解けるんじゃないのかなー」


 軽っ!


 紗紀は呆れた顔でチャラ弁を見る。


 それにキスだなんて!


「何を言ってるんですか!」

「紗紀ちゃんだって、いっくうのこと好きでしょう? 性格はアレだけど、見た目はいいし」

「べ、別に好きじゃないですから」

 紗紀はふいっとそっぽを向く。

「いやいや、そうやってムキになることが怪しい。顔が赤いよ」

 頬に触れようとしてきたチャラ弁の手を、紗紀は思いっきり振り払った。


「だいたい私、一空さんのことよく知らないし」

 何だそんなこと、というようにチャラ弁は肩をすくめる。

「そんなの、これから知ればいいんだよ。何だったら僕がおすすめするホテルを今から予約してあげようね。二人の相性が合うかどうか、じっくり確認しあうんだ」

 スマホを操作し始めるチャラ弁の手を、紗紀は慌てて押さえ込む。


 軽っ! やっぱ、軽っ!


「ちょ、まっ! 相性が合うとか、何言ってるんですか! し、信じられない」

 動揺しすぎて声まで裏返ってしまった。

「え? おいしいものでも食べながら、二人でお話しすればって思ったんだけど。紗紀ちゃんも、いっくうのこといろいろ聞きたいでしょう? 年齢とか家族のこととか、趣味とか好きな食べ物、過去の女性関係のこととか、いろいろ」

「話?」

 紗紀の顔が再びかーっと赤くなる。


 チャラ弁はにやりと笑って目を細めた。

「やだなあ、紗紀ちゃん。もしかしてやらしーこと考えてた?」

「違っ! そんなこと考えてませんから!」

 いつになく騒がしい店内に、一空はやれやれと肩をすくめ苦笑いを浮かべた。

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